5 王様と犬

 ある王様のところに、―その王様はうんと馬好きで―馬さのって部下つけて一日遊んで来て、明日もまた遊ぶから、かまわず置いておけはぁと外さ馬さのせる馬具も外さ置かせていたど。そしたらその晩、雨ぁふったところぁ、みな犬に喰いつかっだて。その馬具は牛の皮だったもんだからめちゃくちゃにさっだど。
 王様、朝げに起きてみたところぁ、その通りだほでに、まず怒って、みな犬を殺してしまえと、触れたど。そうしたと ころが、どこの犬もみな、見っさえすっど殺されるもんだから、こんどは一匹の犬は、野に大した犬の先立ちになって、犬訓練しているのいだったそうだ、そこさ行って、犬の王さ、
「困ったもんだ。おらだ見っさえもすっど、王様に殺される。何としたらええがんべ」
 と、犬さ行ったって。
「はぁ、そんではおれぁ王様さ行って話してくる」
 そして、門開くばり待ちて、入って行って、
「ああ、犬ぁ入った」
 というもんで、大騒ぎする。そして王様の隙ねらって縁の下から、王様の坐っていた下さ行って、
「そっちにいた、こっちにいた」
 というげんども、動くざぁないんだど。 んだから、何とも出すことできないんだど。王様は、
「何かあるには相違ないから、その犬、王様来いというて、音立てて連(せ)て来い」
 と。そういう風に犬さ言うたところぁ、犬ぁ出はって来て、王様どこさ行って、ちゃんと坐って、
「王様、おらだ家来を、みな殺すなんて、とんでもないごんだ。まずどの犬が食ったか分っか」
 というたら、王様は、
「ああ、しくじった。どの犬だか分んね」
「そんなこと、人間だってするもんでない。まずここさ、羊の乳と草葉を、ここらの揉んで、その中さ入っで、飼ってた犬に食せてもらいたい」
 というたところが、その屋敷にいた犬をみな呼ばって、混っていたものを食せたど。そしたところが、みな腹の中に入っていたのを出したど。そしたば、その皮みな出てきたど。
「罪のない者ばり殺して、こういうもんだ」
 と。そんで王様も犬さあやまったど。
 畜類は猫でも何でも、腹から返すときには、草葉など食うでっしゃな。

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