2 猿の胆

 亀の子ども出っどこだと大喜びしたとこだけな。そうしたところぁ、亀のおかた言うには、
「この子どもは、猿の胆食わねじど、満足に生まんね」
 と口説くごんだけど。
「どこの島には、猿島ざぁある。そこさ行って、ほんじゃ猿の胆、おれぁとってくる」
 と行ったところぁ、やっぱしその猿島は、まず木の芽も何も吹いてないくらいになって困っていたど。猿に、
「いやぁ、海の中にはいっぱい木ぁ生えて、実はいっぱいなって、なんと食う者ぁいなくて困っている。おれぁ。そういうどこさ行ってみねか」
 というたところが、
「そんがえにええどこ海にあるか」
「いや、海だって陸だって同じだ。おれぁ背中さたぐりついてあえべ」
 というたところが、やっぱし見たところが、木なんつぁ無くて、海の草なのばりあっどこさ連(せ)て行って、
「海に木あるざぁあんまい、実はお前の胆もらいたいから連(せ)て来たなだ」
 と、猿さ言うたところが、猿は
「なんだ、木に登っているもんだから、胆なんていうのは、木さ下げてて、おれぁ体に胆なんていうものはない」
「さぁ、ほんじゃらば、胆とりに行ったらええでないか」
 と、亀さ向っていったど。
「ほんじゃ、その胆をおれぁもらいたいんだから」
 と、また背中さのせて
「胆、まず一つ呉(く)ろ」
 というたら、
「木に胆ざぁ下げておくまい、体の中にしか胆ざぁないもんだ。お前は間違ってる。お前はおれどこ、だましたから、おれもだましたなだ」
 と。しぶしぶ亀は帰って来たど。

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