1 夢見小僧

 あるところに、親孝行な息子がいて、父に早く別れて一人の母を大切にして、親に早く別っでがら、貧しくなって山働きなどして親を養っていたど。そうすっじど、ある日、山さ行って青物(あおもの)はいっぱい採れて、知らず知らず暗くなって、そして夕方雨なの降って来たから、
「いや、帰んないであまり悪いげんど、今日は許して呉(く)ろ」
 というもんで、家の方さ手合わせて、一晩泊ったど。そしてその岩あっけほでに、そこの岩の片端さ、こう岩を枕にして寝て、採った青物で固めて、雨濡んねようにして寝て、夜中に何か音がすっから、誰か来たかなぁと思って、耳立てて聞いっだば、岩の中で話するようだとて、岩さ耳ひっつけっだところが、人の声のようでもないようだげんども、
「あそこの村では、水は不自由で一所(ひとどこ)しかなくてもう一所、村の真中に柳の木がある。その柳の木は水を吸っているため に、うんと勢いええ、あれ見つけらんねもんだもなぁ」
 という音すっこんだど。
「ああ、これはええこと聞いた」
 と、一生懸命でこうして耳立てていたど。
「もう一つは、貧乏じいさんがいる、金屋(かなや)じいさんの家だず、あそこは…。その金屋じいさんの竃の下掘ってみたいげんど、あれ、誰も掘る者ぁない。一軒、あれぁええ家だげんど、死に絶えっずぁ、あいつ。今のうちに誰か早く教えて呉(け)っどええなぁ、あそこの家はさっぱり陽も通んねで、ぐるりは皆じめじめして、ムカデの毒はいっぱい篭っている。んだから死 に絶えっずなぁ」
 ということ聞いっだところが、
「これはええこと聞いたなぁ」
 と思って、早く夜明けっどええなぁと思っているうちに、少し夜明けたもんだから、家さ帰って来てはぁ、
「おっかさ、おっかさ、あまり悪かったげんど」
 毎日毎日、おっかさどこさ山のものを採って、町さ行って、米買って、残りでおっかさどこさうまいものや好きなもの買って来て上げっど。おっかさ、にこにこというとこ、そいつ見たくて。喜んでまず行ってたもんだそうだ。
「おっかさ、おれはとんだこと聞いて来た。んだから、まず村のお役人様さ行って、その話してくる」
 と行って、お役人様さ行って話したところが、
「なして、そがえな話や夢なの…」
 と聞かなかったて。
「いや、おれは確かにあそこに、水できるという話きいた。おれさ、百両で掘らせて呉(く)ろ」
「水なの出っこんだら、百両でもなんぼでもええげんども…」
「まず、おれぁ一人では掘らんねから、できないときは仕方ないげんども、どうか少し人夫出して呉(く)ろ」
 と、人夫もらって、掘って、そして柳の木の下見たれば、水出っだけど。それから柳の木移さなくてわかんねべから、みんなで人夫をいっぱい頼んで、ヨイヤイ・ヨイヤイとむくしてみたところぁ、段々に湿ってきたど。
「いや、こんどは確かに水出んべ」
 と思って、それから穴を大きく深くしてみんべと思って、そのうちに水づいて来たり、水少しめめくって来たほでに、確かだべと思って、そこあたりを綺麗にしたりして、朝げに明るくなるばかり待ちて、その人行ってみたところぁ、きれいな水は、いっぱいになって流っでいたっけど。
「これは、ほんに、みんなに喜こばっで、百両の銭をもらって、おっかさどこ喜こばせて」
 そしてまた、金屋じいさんさ行ってみたところぁ、
「じいさん、何しった」
 というたらば、
「いやいや、家はむくれっかと思って困ったもんだ。雨ぁ降るじど、かくれ家もなくて、何としたらええんだか、建てる勇気もなければ、何としたらええんだか」
 と口説き始めたど。
「ほんじゃ、この家をおれに売んねぇか」
「こんな家買って何する」
「いや、むごさいから買うから、なんぼに売る」
 というたらば、
「八十両にだら、おれぁ暮さんねべか」
「ほんじゃ、百両に買うから」
 というたば、喜こんでその百両で小さい家を建てて、自分の暮される銭残して…。
 それから今度、片附けてみたところぁ、昔竃つくったらしいところに、いろいろなもの上げていたって。それをまず皆投げたりなんかして、そこを掘ってみたところが、カチンと鍬の先に手答えあるから、それを掘ってみたれば、甕さ金いっぱいだっけど。これを喜んで、おっかさどさ持って来て、喜こばっで、それから今度、あのええ どこの旦那衆さ行って、まずお前の家、こういう風だという話を聞かせて、そうして、なじょな家だかとて廻ってみたば、娘の大事なの、寝ててなんとも仕様ぁないということだけずもなぁ。
「さぁ、ほんじゃらば、おれにまかせて呉れないか」
 というたば、
「生かしてさえも呉 く れれば、なじょにもして、家なの、ええ」
 と。それから木なの、ぐるりさあるもの切ってみたば、陽はさして来る。そしてモクモクと木の下あっどこ、油で焚いて、ムカデざぁ毒があるというから、油鍋を、ここさ、二どこ三どこさ置いて、油を煮たてて、みんなに箸を持 たかかせていたところぁ、ムカデは大きいなに、小っちゃいなに、チョロチョロ出てきたけど。それをみな油鍋さ入っだところぁ、
「いやぁ、お天道さま見た。いや、ええこと」
 なんて、その娘は起るようになったど。
 そして今度、みんなを喜ばせて、おっかさんも喜んで、親孝行すっじど、そういう風なええことというものは、神さま教えておくやるもんだど。
 ある人はその話聞いて、やっぱし、山さ行ってそのどさ泊ったど。そうしたところが、やっぱし夜中に音すっから聞いっだらば、
「ああ、正直なええ ..親孝行なものさ、みんな教えてやってええ ..がった。誰も教えたいげんど、教える者ぁいなくて困ってあった」
 ということで、そんではぁ、その人はそのまんまで、聞かねで来たど。んだから親孝行すれば、みんな、天知る地知るで、親孝行はすんなねもんだど。

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