34 一寸法師

 むかしむかし、あるところで、
赤子(んぼこ)生まれっど」
 ていうわけで、
「何だか、産み月にしては、腹、ほだえ大きくないようだな」
 なて、みんな語ったげんども、腹たいしていたいとも思わね。生まっだとも思わねようだげんども、生まっだようだ。なて調べてみたら、ちっちゃこいな生まっでいだけど。して、はいつ一生けんめい育てた。
 ところが、その一寸法師が利発が賢こくて、賢こくて、何でも分かっているど。んだげんど、ほだえちっちゃこくては縁組みもさんね。こりゃ困ったもんだて、そこの家は元々あんまり金持でないがったど。
 して、節分の日、どこでも「鬼は外」だった。ところがその家だけは、
「鬼はみなどこでも追い出されっこんだら、おら家だけは、福は外で鬼は内すんべ」
 ていうてだ。他では、〈福は内、鬼は外〉て言うて、豆ばらばら、ばらばらてぶっつけられっ時、おらえの家だけは部落で一軒だけ、鬼は内、福は外だった。んだから、みんな、鬼だそこさ来て休んだ。そして休むときは、みんな人気なくして、鬼ば休ませっだもんだ。
 ところが、みんな出はって行くな、ちっちゃこいもんだから、出はって行くの忘っではぁ、そだえしてっ時、鬼ざぁ、恐っかないもんだから、殺されるなて聞いっだもんだし、仕方ないから、床柱の日割れの孔の中さ隠っでだど。ほうしたれば、鬼だ来たけぁ、
「いやいや、まず休ませてもらうべ」
 なて来て、話しった。
「何だか人くさいね。人いたぞ、人くさい、くさい。ほっちの方くさいなぁ」
 て来たけぁ、()ぎつけらっだって、床柱さ来て、
「ここくさい」
 て、匂いかいでいっ時、一寸法師はいきなり鼻毛伝わって、鼻から入って、腹の中さ入って行ってしまった。ほうすっど、ピィーッピィーッというたげんども、出はってこないはぁ。そして腹の中さ入っていってしまった。ほっちこっち針でつっついてけだ。
「いたい、いたい、腹いたい」
「こりゃ、こりゃ、おれの言うこと聞くか」
「何でも聞く。あんまり突っつかねで呉ろ」
「よし」
「お前、どこにいたんだ」
「おれ、腹の中にいた」
「いやいや、こりゃ困ったもんだ」
 て、鬼だ、いた。青くなった。
「おっつぁん、何した」
 なて、子ども鬼。
「いや、腹いたくて何とも仕様ない。中さ、おかしなもの入って行った。人みたいな、ちっちゃこいな入って行った」
「入って行ったなて、どっからだ」
「いや、鼻の孔から」
「んだから親父、鼻の孔大きくして歩くな」
 なていたげんど、何とも仕様ない。で、
「んだらば、突つかねから、どうだ、おれの言うこと聞くか」
 て言うたど。
「銭、なんぼでも持って来て、みなこっちの家さ寄こすから、助けてばりけろ」
「うん、銭も持ってこい。んだげんども、お前だ、こうして銭出していんのは、打出の小槌から出していんのだべ」
「ほだ」
「銭、たんといらねから、打出の小槌すぐこさ持ってこい。んだど、お前の腹の中からすぐ出はってやっから」
 ほして、鬼どもだ、家来さ命じて、銭と打出の小槌かついで来ておいた。ほうしてはぁ、こんどは福は外、鬼は内ではなくてはぁ、どこの家も当たり前になったもんだから、鬼だも、退散して、そこから行くとき、そこさ置いて行った。一寸法師は、なえったて、そだな大きい打出の小槌打ちふることできないわけだ。そうすっど、こういうわけだって、
「おれば大きくなるように願って、打出の小槌ふって呉ろ」
 と、こういうわけで、振ってもらったれば、一ふりに何尺とおがって行って、当たり前の人間になった。
 ほして、その話聞いっだお姫さま、
「ほだえすばらしいものもっていたらば」
 ていうて、京さのぼって行って、ほして、打出の小槌持参で、お姫さまの聟どのにおさまったけど。
 どんぴんからりん、すっからりん。
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