32 蟻と虎

 むかしとんとんあったずま。
 むかしむかし、一匹の蟻コと一匹の虎が出会った。ほうしたけぁ、虎が蟻コに向かって、
「何だ、お前、ほだえちっちゃこい体で、何ができるんだ」
 て。
「おれは、この辺では、百獣の王だ。どうだ、おれの体、それからおれの顔付き大したもんだべ」
 て。すばらしく虎は自慢した。
「お前なんか、おれから見れば足の一こすりではぁ、死んでしまうんだ。つまらねもんだな、蟻コなて」
 て、さんざんぱら自慢した。
 ところが、蟻コは、
「いや、お前は一匹だけだべ。一匹狼だの、一匹虎だのていうて、大したことないもんだ。おら方には何千何万ていう仲間がいるんだ。喧嘩したって、お前の比ではない」
 て言うて、二人は自慢話になった。ほうすっど、
「こっじぇげだな、ちっちゃこくて、こっじぇげだなホラ吹くなて、とんでもない野郎だ」
 て、虎がいきなり蟻コを足で踏んづけてしまった。ところが蟻コは指の間からくぐって、ほして逃げて行って仲間呼んだ。
 ところが蟻コの仲間、出るわ出るわ、もさもさて出はって来た。ほして、虎さかかりはじめた。体中さのぼって、どここことなく、()っついてしまった。虎、何とも仕様なくて、
「いやいや、わるかった。この塩梅では殺されっから、何とか助けて()ろ」
「こんどから、大ボラ吹かねか」
 と、こういうわけで、
「いやいや、大ボラ吹かねし、お前だばいじめたりしないから、勘弁してけろ」
 て、こういう風に言うて、蟻コが勘弁したった。ほんでやっぱり、世の中ていうのは、ちっちゃこい力でも、まとめっど大したもんだ。決しておろそかにさんねもんだていうことが分かった。どんぴんからりん、すっからりん。
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