29 ホーロクとヤクト

 ここらの人ぁ、峨々(蔵王山麓の温泉湯治場)さ湯治に行って、豆持って行った。煎豆でもして食うべと思って、むかしはお菓子など、何だてないもんだから、女中さんさ、
「ホーロク貸してけらっしゃい」て言うたど。
「えっ?」て聞ぐ。
「ホーロクないべか」
「ホーロク、なぁ」て、うまく通じねがったど。
「いや、そいつぁ、やぐど(いたずら)だったはぁ」て言うど、
「ああ、ヤクトですか」
 て、いきなり、ホーロクもって来たど。
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