28 手打ちと半殺し

 むかしむかし、信濃の国さ行って、夜泊ったれば、かあちゃんとおっつぁん、ひそひそ話しておった。そおっと聞いっだらば、
「どうだや、こりゃ、手打ちにすっか、それとも半殺しにすっか」
 いや、はいつ聞いっだ旅人はびっくりして逃げた。そして途中まで来て、とある茶店さ廻って、
「いや、こういうわけで、ほうほうの態で逃げてきた」
 て語ったれば、そこのおかみさんが、からからと笑った。
「なして笑ってるんだ」
 て、こっちは、はぁはぁ、はぁはぁ息切らして言うたれば、
「あんたは、何も恐っかながっことないなだ。この辺では、ソバのことは〈手打ち〉て言うし、それから、ぼたもちのことば、〈半殺し〉て言うんだ。んだから、あなたば待遇すっべと思って、ぼたもちにしたらええがんべか、おソバにしたらええがんべかて、相談しったんだもの、おまえ、逃げっことないべな」
 て言わっで、またもどって行ったったど。どんぴんからりん、すっからりん。
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