26 茄子の古種子

 上の山の殿さまさ、誰より早く献上する百姓いだっけど。
 負けていらんねて、他の百姓、なんぼ真似ても、ほの人にかなわね。やっと花咲いた頃、ちゃんと茄子にして、早く献上する。その人には誰もかなわねがった。
「あの秘密、どこにあんべなぁ」
 ていたげんど、分かんねがった。
 ところが、その百姓のおっつぁんがすばらしい夫婦喧嘩した。したればかあちゃんが、へらりなんだから(口が多かったので)、
「茄子なの、はっじぇげだな、早くなの、早生にして出すななの、造作ない。古種子蒔くとええなだ」
 て、しゃべてしまった。
 それからというものは、みんなに真似さっで、殿さまさ献上すんな、一等早くさんねぐなったど。んだから、女衆ざぁ口(うか)いから気付けんなねもんだど。どんぴんからりん、すっからりん。
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