25 平種子柿の由来

 むかしむかし、越後の国さ、柿つくりの熱心な若者いだった。何十本と柿の木植えて、下肥(しもごえ)をやったり、草刈って来てやったり、何かえして、手入れしった。
「今年は豊作のようだなぁ」
 なて、ずうっと見廻しったら、その一本の木だけは一粒も柿見えない。
「おかしいこともあるもんだなあ。何か病気でもついだんだか」
 と思って、葉のねっこ、木の根っこ虫食ったんだかて見たげんども、虫らしいものもいね。
 ところが、木の葉がくれに、一粒の柿が見えたど。
「ああ、一粒だけなっていたどら」
と思っているうちに、ほいつぁもとのの一週間もおもったところが、すばらしく大きくなって、木はしなってきて、たらづいてしまったはぁ、人だらば三・四人も入れるように大きくなってしまった。
「いやいや、柿、すばらしく大きくなった。がらんぽ(空洞)でないべねぇ」
 て、こつこつと叩いてみた。ほしたら中から「待った」と聞こえた。
「何、待ったなて言うっだ」
「ちょっと待て」
「はぁ、変なこともあるもんだ」
 と思って、何か中にいたんでないかと思って、腰ささしった鎌で、そおっと柿の皮えぐって見たれば、中では白い髭たらしった仙人と、それより少し若い仙人が碁打ちしったど。五目並べしった。
「そら三だ」「待った待った」「いやいや、助言無用、待ったなしだ」「いや、ちょっと待った」
 見っだ。またその若者は五目並べというと、三度の飯より好きだ。だんだえのり出して見っだ。ところが年寄りの方はなかなか、やっぱり経験が豊かだかして、先手先手と行っている。
「はい、三だ」「はいこんどは四だ」
 止めた。
「はい、こんど、いまつうと(少し)で、どうだ。四三の勝だぞ」
「ちょっと待った」
「助言無用、待ったなし」
 て、威張った。そうすっどこっちで突っついて、そおっと教えたど。若者ぁ。
「その四の方とめっど、お前のが四四になって、逆転勝ちだ」
 て、そおっと教えたところが、四三と来たのさ、四を止めた。ところがほの年寄りの仙人の顔色変わった。
「待った」「助言無用、待ったなし」
 こっちの方から出て行った。
「こんな逆転勝ちはどういうわけだ」
 ていう頃、その若者はあんまりのり出して行って、柿の中さポトンと落っでしまった。そうしたけぁ、アハハ、アハハて三人で笑ってしまった。笑っているうちに気ついたか、その年寄った仙人は、
「こりゃ、お前はこの若い者に聞いだんだべ。んねげば、おれに勝てるわけない」
 なて、始まった。何だかだて始まって、険悪になったもんだから、その若者は穴から抜けていきなり逃げはじめた。そしたら、「待て」て言うけぁ、バラバラバラバラ碁石()ってよこした。碁石頭さぶっつけらっではひどいからて、頭おさえながら逃げた。そしてはっと気づいてみたらば、その柿も仙人もいねがった。そしてそこさ碁石バラバラだと思ったらば、白い碁石だと思ったのは白い柿の種子、黒い碁石だと思ったのは、実った黒い柿の種子だった。そしてそいつ蒔いてみて、桃栗三年、柿八年で、なってみたれば、その仙人が投げてしまったもんだから、柿の種子一粒もないがった。それが平種子柿の種なしのはじまりだど。どんぴんからりん、すっからりん。
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