24 三味線仇討ち

 むかしむかし、殿さまの時代に、同じ殿さまに仕える指南番がいだった。何かのいさかいで、一人の指南番が闇討ちくって殺さっでしまった。それで、仇討赦免状は出たげんども、たった一人娘、一人で。ほして片脇の相手は指南番ていわれるほどの剣豪だ。かよわい娘一人がなぜして仇討ったらええがんべ、こういうことになって、仇討たねわけにも行かねし、ほとほと困ってしまった。
 それで、これは、仇討ちていうのは、剣だけで討たんなねざぁないがんべ、女の身で女の技術を磨いて、何か勝負する方法はないかて、その女が考えた。そして地位も何も剥奪してはぁ、貧乏になったもんではぁ、あるどこさ芸者の見習いみたいに入って、三味線習った。そしてふとあるとき、お座敷さ行った。そして三味線ひいっだ。
 ところが、最初、お客さまの心臓の鼓動さ合せて、三味線をちゃんかちゃんかちゃんかちゃんかひいた。ほしてそうすっど、こんどはお客さまの心臓の方が三味線さ合ってくるようになった。それがこう、肌を伝わってくるようになったのが分った。
 だんだえ速くしたり、だんだえ遅くしたりしたら、その人が非常に苦しみはじめた。鼓動が速くなったり、遅くなったり、「よし、これだ」というわけで、こんど指南番の家さ縁あって、ほして三味線でいろいろ歌うたったりして、ほして心臓さぴたっと三味線を合せてひきはじめた。
 最初は心臓の鼓動と同じくらいひいっだげんども、あるいは速く、あるいは遅く、ほしてまた速く。
 そうしているうちに、指南番は苦しみはじめた。ものすごく速くして、だんだえ遅くしてくる。脂汗が出はじめた。そしてだんだえ遅くして、パタッと三味線とめた。そしたら心臓もパタッと止まってしまって、ほして大望をとげて、仇とりしたって。三味線仇討ちていう一席でございます。どんぴんからりん、すっからりん。
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