15 頭播磨に

 むかしとんとんあって、むかし殿さまさ呼ばれて行った。
「これこれ、与左衛門、世の中で一番気持ええがったことはどういうことか」
「はい、まず殿さまからお言いつけなったことを完全に果して、出来ましたというときは気持ええがった」
「うん。ほれから」
「ほれからは、自分の思う通り行ったときには、何でも、こうすんべ、ああすんべと考えたことを思う通り行ったときには、気持ええがった」
「あとないか」
「いま一つある」
「なんだ」
「道中してで、そして、なんだてまずい話だげんども、うら心して来て、何とも仕様なくて、ほしてほいつやらかしたときには、こりゃ気持ええもんだ」
 と言ったら、ごしゃがっだ。
「何だ、無礼者、尾篭な話すんな」
 て、ごしゃがっだ。
 ところが江戸さ行く時、何の食い合せ悪いもんだか、殿さま、腹少し具合悪かった。
「これ、三太夫、余はうら心地して来たぞ」
「何だ、殿。はしたない。野糞なて殿さま、さんない」
 こういうわけで、殿さま、ほとほと困った。ほして与左衛門はおらんかということで、与左衛門を思い出した。与左衛門は、殿のどこさ行った。
「与左衛門、我慢できない。脂汗出てきた」
「お殿さま、お殿さま、あなたのおっしゃり方悪いんだ。ちょっと歌詠みに行ってくるて言わんなね」
 そして篭停めて野原でやらかしてきた。ほして来たら、三太夫も、
「殿、何と作った」
 したらばこういう歌つくったていうんだな。
  道中に国二つを設けたり
   あたま播磨に尻は備中
 て作ったけど。ほしてほん時はじめて、
「ああ、やっぱり、こだえ気持のええこと、世の中にない」
 殿さま言うたて。どんぴんからりん、すっからりん。
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