4 韋駄天

 また支那に、ある王さまいて、そこにはすばらしいソロモンの壺といわれる、優秀な宝ものの壺があった。あるとき、何ものかに、妖怪に、はいつ盗まれかけた。
 また、盗んだその妖怪の速いこと、あれよあれよていう内に、そこを遠去かった。ところがその王さま、
「誰ぞある。あれを引捕えてくる者、いねが」
 て言うた。ほしたら一人の若者が出て、それを追っかけた。またその追っかけた足の速いこと、スタスタ、スタスタ、タッタッというど、飛ぶように、飛鳥のように、その妖怪さ追っかけて、たちまちひっ捕えて、その壺を取りかえしてきた。
「お前は、何という者だ。何という名だ」
 て言うたら、
「韋駄天めでござります」
 て言うた。今でも足の早い人ば、韋駄天みたいだとか、走り方ば〈韋駄天ばしり〉なて言うけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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