6 沼神の手紙

あるとこに、働きものの娘いだったんだど。
 かいつが、ほれ、家が貧しいから、遠くさ女中に()さっだんだど。
 ところが、たまたまおかちゃんが病気だていう便りもらったど。すぐ来い…て。んではというわけで、旦那さ行って、
「こういうわけだ」
 て話したれば、ほっから急いで帰っても、まず三日。行き帰りでは六日かかるのだど。はいつが、急いで急いで。普通だど一週間かかんなだど。
 ところが、ほこの旦那、
「一週間目に帰ってこねごんだら、三年も稼いだな、()料、棒引きだ」
 てだど。ほして、よくよくソバ代ぐらいあずけて、小づかいも呉ねでよこしたわけだど。んだげんど、ほれ、おかちゃんさ会うだくて、一心にきたわけだど。
 ところが、峠近くまで来たれば、道さはだがってた者(立ちはだかった者)いたんだど。何だと思ったらば、
「おれは、ここの蛇だ」
 て、だど。
「お前ば、いま一呑みにするのは雑作ないげんど、実は、この前、おれの兄弟分から、お前みたいな、うまい食いものもらったから、女の若い娘もらったから、お返しすんなね義務あるんだ。んだから、おれ、手紙書いてやっから、お前、はいつおれの兄弟分のどこさ持って行げ」
 て、こういうふうに言うたわけだど。ほしたれば、
「まずはぁ、おれは、おかちゃんと会わねで死なんなねっだなはぁ。こりゃ、どっちにしても呑まれるはぁ」
 て思ったど。
「困ったこともあるもんだなぁ」
 て思って、ほして一生けんめい行ったれば、また一つの大きな峠あっけど。
「あそこの峠で、おれは呑まれるんだなぁ」
 て、行ったんだそうだ。ところがほこに、ちょぇっとした祠みたいなあって、何だと思ったれば、ほこさあんのは天神さまの祠だったけど。
「ここさ、ちょっと休ませてもらって、天神さまでもお詣りして、お願いしてみっか」
 て思って、ほこさ廻ったれば、ほの、天神さまはほこさいてよ、
「お前、手紙あずけらっできたべぁ」
 て、お見通しだけどはぁ。
「ほだ」
「ほの手紙、よこせ」
「んだて、殺されんも」
「ええ、ええ、おれぁええあんばいすんのだから、おれは神さまだから、くなね(かまわぬ)」
 ほれ、天神さま、こんどは手紙書き換えて呉だんだど。
「この者は、稼がせらっでばりいで、よくよくうまみがない。むしろ、うまいどころか、つうと(少し)毒気もある。あんまり稼いでばりいたから、やせぽげで。んだから、はいつをうまくして食うには、金子なの与えてやれ、んだど、うまいもの食って、かならずこの娘はここ戻ってくっから、ぽこぽこ(ふと)ってきたどこ食うとうまいであろう」
 て、手紙書き換えて呉たど、天神さま。
 ほして、はいつ持って行ったれば、やっぱり峠さあらわっで、
「どこへ行く」
「こういうわけで、あなたの兄弟分から手紙あずかってきた」
「どれどれ、こっちゃよこしてみろ」
 ほしたれば、
「何だ、今すぐ食べらんねのが、なんだ金子なの持たせてやれて書かった、ほうか仕方ない、ほんでは、帰りにここ通っか」
「はい、必ずここ通ります」
「ほうか、よし、んだらば」
 ていうわけで、小判、どっさり背負わせだどはぁ。ほして、
「あと、いらね」
 ていうげんども、
「いや、駄目だ、ええ体にならねから、皆持って行げ」
 ていうわけで、どっさり背負わせらっで、ほっから家さやっと、よたよたていうほど銭背負わせらっではぁ、家さ行ったって。
 こんどは、銭いっぱいあっから、帰ってなの行かねったてええがったなはぁ。ほして、おかちゃんの病気治して、ゆうゆうと暮らしたったど。
 昔とんとん、どんぴんからりん、すっからりん。
>>ゆき女 目次へ