5 うるしかき竜

 むかしむかし、秋田の国に、漆かきの兄弟いだったど。兄と舎弟。
 ところが、山の中さ、うるしかきに行ったらば、兄がきれいな渕ながめてみると、
「ここらで、喉かわいたから、水でも飲んでみっか」
 ていうわけで、飲んでいたれば、ほしたれば、渕の底さ、うるしの塊が沈んでいだんだど。
「ははぁ…」
 はいつ、兄んつぁ、舎弟さ()んな()んだくなったんだどはぁ。ほして、とっさに考えて、丸太伐って、ほの丸太で竜の格好刻んだんだど。ほして、はいつ、そろんと、ほこさ浮かしったんだど。ほして自分ばりくぐって行って、ほのうるしの(かたまり)、とってきたんだど。ほうしてはいつ高く売って、兄んつぁ、いたどこだ。
 舎弟は、ほだごど知しゃねし、木うるしばっかりかいて、たんと(多く)かかんねがったわけだったなね。
 ほうして、水飲むべと思って行ったらば、竜いたわけだずも、ほこに。いや、ぶったまげて舎弟は水も飲まねでもどってきたわけだ。そいつ聞いた兄んつぁ、
「しめ、しめ…」  あるとき行ったら、ほの竜ぁ、生きて、なれ、兄んつぁ()っでしまったんだどはぁ。
 んだから、自分ばり抜けがけざぁするもんでない。兄弟ざぁ仲よくさんなねもんだて、世間の人ぁ、みなそういう風にいうたったて。
 どんぴんからりん、すっからりん。
>>ゆき女 目次へ