3 弁天さまと六地蔵

 むかしむかし、じんつぁとばんちゃいではぁ、年寄ったもんだから、何にも仕事ないほで、カセ玉つくりしたど。ほして冬きて、いよいよ年とりになったげんども、まず、ほれ、菜漬けと御飯ぐらいしか、何もない。
「困ったもんだ、何か、魚でも買ってくるいように、カセ玉でも売ってくるべ」
 て、町さ出かけだ。
 ところが、商売人拵えたカセ玉でさえもそう売んね、素人拵えだ、特にじんつぁ拵えたカセ玉なて、中々売んねがったって。
 ほしたれば向うから、笠(たが)った人きたっけど。ほの笠持ってきた人も、ほれ、素人拵えた、はいつもじんつぁだも、ほれ。ばんちゃと二人で、笠せっせと拵って、そこは餅米もなくて、餅もさんねくていたじんつぁ、笠売りにきた。町中廻って歩いてきたげんども、笠一(かい)も売んねって。
「困ったもんだ」
 て、二人はそこでばったり合って、ほこで話語ったって。
「いや、おれぁ笠売り来たげんど、一つも売んねず」
「おれぁ、実はカセ玉売りにきた。さっぱり売んね」
「ほんでは、売んねなど、売んねな交換してみんべ」
 て、ほこでカセ玉と笠と交換したんだどはぁ。ほしてカセ玉持って行ってたじかつぁが笠かついで、笠かついんだじんつぁがカセ玉背負ってはぁ、おのおの、
「ええはぁ、仕方ない。家さでも行くべはぁ、笠でも持って行ってはぁ、こりゃ家さ行ぐど、何年と使えんべし」
「家のばんば、年寄ったげんど、カセ玉でも髪かざりすっど、ええ女になんべぇな」
 なて、二人は別っだどはぁ。ほうしてきたれば、ほれ、雪ぁ降ってきた。村はずれまできたれば、地蔵さま立ってだ。地蔵さま、寒いようで、寒いようで仕様ないから、その笠全部かぶせてはぁ、家さ戻ってきた。
 一方のカセ玉持って行ったじんつぁ、村はずれの弁天さままで来た。ほしたら弁天さまの髪格好はええから、
「かいつ、ばんちゃさばりでなく、弁天さまさも一つ納めて行くべ」
 ていうわけで、ほの弁天さまさ納めた。
 ところが、納めてお詣りしてくんべと思ったれば、何だか、何かさ引掛かたみたいで来らんね、おかしいもんだと思って、くんべと思ったら、弁天さま、口立って、
「待っていらっしゃい」
 て言うたど。ほしたけぁ、何だべと思ったれば、
「こいつぁ、木で拵えた桝(ます)だ。んだげんども、この桝は、いっぱいなの出ねげんど、お前の家で食うだけは、おれさ、カセ玉納めて呉だお礼にお上げする桝だ。この桝はお前だ食うだけは、何(なん)たもんでも願ったものは出っから、この桝さ願わっしゃい」
 て、()っで、ほの桝もらって、じんつぁ喜んで、家さ帰ってきて、
「ばんちゃ、ばんちゃ、実は、こういうわけで、笠さっぱり売んねがった。ほして、カセ玉売りどはぁ、破れかぶれで、取換(しかえ)えできたったはぁ。村はずれまで来て、弁天さまさ上げた。ばんちゃさカセ玉上げっかと思ったげんども、弁天さま思い出して、弁天さまさ帰り廻って、カセ玉納めだれば、来っど思ったればおさえらっだ、弁天さまから…。何だと思ったれば、この桝もらってきた。ばんちゃ、ばんちゃ、願ってみろ、まず」
 ていうて、二人して、ほれ、
「ほんじゃ、餅米()てけらっしゃい」
 ていうど、餅米はそくっと二人して食うほど出る。ほれぁ、お魚ていうどお魚出る。人さ売ったり、()たりするほどは出ねげんど、二人が一生楽に食うほど出だったど。
 して、一方、こっちの方は「笠地蔵」と同じように、地蔵さまさ、あんまり寒いようだからて、みな笠かぶせてきた。
「ばんちゃ、ばんちゃ、こういうわけで、カセ玉売りに行ったげんども、カセ玉売んねくて、売んねくていたれば、向うから笠売りきたっけ。その笠と取換(しかえ)だはぁ。ほして来たれば、村はずれに地蔵さま、あんまり寒いようだけがら、かぶせてきたずはぁ」
「ああ、ええどこでない。じんつぁ、はいつぁええがった。んでは、今夜はクキ菜でも煮てはぁ、まずはぁ、寝んべはぁ、ばんちゃなぁ」
 ていたれば、晩方、
「じんつぁ家ぁ、ここだ、んねがい。ばんちゃ家は、ここだ、んねがい」
 て、表で音ぁする。どっどっどって、足音する。
「なんだべ、恐ないもんだな、ばんちゃ」
 て、語ってだって。おそるおそる戸開けてみたら、米俵だ、何だて、どっさり地蔵さまの格好しった、笠かぶったないっぱい来て、置いで行ったどこだど。ほしてはぁ、楽々暮したったはぁ。
 どんぴんからりん、すっからりん。
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