38 茗荷

 そばやの旦那が、
「茗荷を食うど物忘れする。んだからお客さまが忘れものして行くように、そば の薬味に茗荷出せ、ねぎでなく、茗荷刻んで出すから」
 て、番頭に茗荷刻んで、いっぱいかけて、
「お客さま、金持ちなようだから、茗荷の辛味いっぱいつけて出せよ」
 そして出してやって、「いや御馳走さま」て言うて、そのお客さま帰って行った。 そして帰って行くより早く旦那さま出て来て、
「今のお客さま、何か忘れものして行かねが」
「何もないようだ。よく見たげんど何もない」
「ないざぁない、あの位茗荷食せだも、何か忘せないざぁないから、財布でも忘 せねか探してみろ」
 て、なんぼ探しても見つけらんね。
「何もないざぁ、おかしい」
「ああ、あった、あった」
「何忘せで行った」て言うたら、「そば代置くの忘せでった」
旦那がっかりしてはぁ、
「ああ、こういうことするもんでない」
と。それから茗荷の辛味出さないけど。
(宮下 昇)
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