35 梅干

 大事に犬飼ってだ。女犬だ。その犬つれて山さ稼ぎに行った。 そして坂道トントン、トントン登って行ぐ時、 その大将は年若がったもんだから、犬のペペコ見て、 気分が出てきて、山へ行って犬さはめてみた。何としても取れなくなった。 困って困って仕方なくて、和尚さまさ行って聞いてみんべと思って 犬抱いて山から帰って来た。 和尚さまはまた若い和尚で、一人ものだったから、 孔何かないかと思っているうちに、太い火吹竹あった。 そいつ嵌めてしまった。取んねぐなった。 さぁ大変だ。棒なんぼ引張っても火吹竹とんねぐなった。
 そうして困って炉端にあぐらかいて、火吹竹かかえていた。 そこさ犬を抱えて若者が行ったて言うなだ。
「実は和尚さま、本当に恥ずかしい次第だげども、これこれとれなくなってしまった」
 と。和尚さま、
「おれも、火吹竹取んねぐなった」
 なて言いだくないから、
「それぁ困った。すっぱいもの食ってみっどちぢんで行ぐ。そうしたれば取れっ かも知んないから、流しのカメの中に梅漬けっだなあっから、そいつ食ってみろ」
 て言うた。ところが和尚さま火吹竹邪魔になって、大きな石上げっだもんだか ら、なかなか石取除(の)けらんね。 若者は若い者で、犬だっこしてっから取らんね。 そこに女中一人いた。 女中、
「お梅、お前、この石とって梅漬出してみろ」
 そのお梅なる者は芋洗いしった。 長味くった芋の格好のいいものあったもんだから、 これまたその芋をいたずらして押込んでやったら、その芋取んねぐなった。 んだげんども芋は見えねもんだしな、仕方ないもんだから、ヒョコヒョコと来て、 梅漬のお重(もし)を取ろうとしたげんど、 いや大きな石で持ち上げらんねていうんだ。 そして「ドッコイショ」とふんばって、力んで持ち上げたら、その力んだ力で芋 抜けて行った。 そして流しの隅こさトーントーンと抜けて行ったら、 大事に飼ってた猫はネズミと間違えた。 そしてその芋さ飛びついた。 そうすっどこんど、その猫見つけて、犬が猫さ噛みついた。 スポーンと抜けて行った。さぁ大事な猫、 犬に噛まれっどわるいから、犬ひっぱだっかと思って、 ひょいと見たら前に火吹竹あったから、そいつ思い切ってのし上げたら、 スポーンと抜けて行ったど。 そして三人とも無事とれた。それから梅干は災難除けだということになった。
(宮下 昇)
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