32 屁たれ嫁

 むかしあったけど。
 風呂敷包み一つ背負った若い娘が来た。そして、その娘を泊めだんだど。した らとてもよく働く。そこの家で、嫁こ一人欲しいと思っていたもんだから、
「おらえの嫁になってくんねが」
 て、頼んだげんど、
「おれ、とても嫁にならんね」
 て辞退するんだって。
「いや、そんなこと言わないで、お前のようなええ娘、欲しいと思っていたんだ から、嫁こになって呉れ」
 て、そうして、
「ほんじゃ、いでみんべ」
 て置いだんだど。ところが毎日毎日一生懸命に働いて言うことないげんども、 だんだん顔色がわるくなって行く。
「何だお前、どっか悪いのか、どこか病気でも持ってんでないか」
 て、親だち聞いだんだど。したら、
「どこも悪くないんだ、何でもない」て言うげんども、それでもだんだん顔色わ るくなって来るし、心配して聞いたら、
「実は、おれには病気があるんだ」
「何病気なごんだ」
「人に言われない病気だ」
「そんなこと隠しておくことないから、何にもさしつかえないから、正直に言う てみろ」
「実はおれが、屁が出る病気なごんだ。そして屁こらえているために、何だか体 が具合わるくなったんだ」
「ああ、そんなこと安いごんだ。かまわず屁などお前出るほどたれろ」
 て言われだって。
「ほだたて、そんなこと言われだたて、おれたれられそうにない」
「いやいや、そんなことないから、思い切り腹いっぱいたっでみろ」
「ええがんべがっす」
「ああ、ええどこでない」
「ほんじゃ、おどっつぁまもおっかさまも、炉椽さつかまってておくやい」
「そんな、何屁たっじゃて、炉椽おさえっことあんめぇ」
「いやいや、そうでないから、どうか一つ、ぎっしりとつかまっておくやい」
「んじゃ、こうすっどええか、んじゃ、たっでみろ」
 て、炉椽さぎっしりと両手かけてだ。ほうしたら嫁さん、尻こっちさ向けてた けざぁ、ソロソロと尻たぐってたれた。ブーウと出っど、なるほど大きい屁だて いうんだ。そこらのもの吹っとび出した。ほうしているうちにグラングラン、グ ランとそこら動き始めた。そうこうしているうちに、どんどん、どんどんその屁ぁ 強くなって来た。そうしたところぁ、雨戸はずっでとんで行った。ガラガラ、バー ンととんで行ぐ。ヤカンから何から、みなとび始めた。親父とかかは、やしゃな がって、「屁の口とめろ、屁の口とめろ」て言うげんども、たれ始めたら止まるも んでない。そうしている、炉椽がらみ、おどっつぁまとおっかさま吹っとばさっ でしまった。空までとんでしまった。
「こがえな嫁、置かれるもんでない」
 そして早速おはらい箱になってしまった。
「ほだから、おれ、たんねて言うに、たれろたれろていう。んだげんど仕方ない」
 どさか行くより他ないて風呂敷包みもって来たな背負って出かけた。ほうして ずうっと行ったら、子どもら、峠さ掛ったら、わんわん騒いでいた。
「何しった」
 て言うたら、
「梨いっぱいなってだところが、梨の木ぁ太っとくて、高くて、何とも捩(も) ぐべざぁ ない」
 石など投(ぶ) ってやっけんども、たまに当たって落っで来っけんども、取らんねく て困ってた。
「ああ、そんなもの、おれ捩いでくれんべ」
「なじょして捩ぐ」
 て言うたら、
「屁でもいでやる」
「何を言うてやっか。屁でこの梨もげるもんでない」
 て言うたら、
「ええが、お前方待ってろ」
 て、ちいと小高いどこさ上がって、尻ひったぐっていたけぁ、たれだ。それこ そ出だ。ブウ、ブウ、ブーウ、ブウ。たれたところが梨の木ぁガサガサ根っこか ら根もくじりになるくらいゆすっだ。落ちた落ちた。野郎どもの頭さばらばら、 頭こぶ出るやら大騒ぎになった。みな逃げて行ってしまった。そうして一つもな く皆落ちてしまった。そうして娘はみ落して、さっさと行ってしまった。そうすっ ど野郎ども集まって来て、
「いや、ええがった、みな捩いでもらった。食いたてらんね、まず一つ大きなか ら」
 拾って噛ってみた。いや屁くさいの屁くさいの、食(か)っじゃもんでない。
「いや、これも屁くさい」
 どいつもこいつも屁くさくて、一つも食れんななかった。そうして、
「あの女、ひどいことしてしまった」
 なて言うたげんど、どこさか行ってしまったから、何とも仕様ない。とうとう 梨一つも食んねがったど。どろびん。
(宮下 昇)
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