31 馬鹿聟

 三十近くになっても嫁さんが欲しいて言わね息子いたけど。何と困ったていう んだな、嫁もらい。
 ちょうど川向いのおばさんがいた。そのおばさんが来て、強引に仲人した。
「あの娘は無傷者だから、お前さなど余るような、もったいない娘だから、ほい つもらえ」
 と、むりやりにもらわせられた。してはぁ、御祝儀も簡単ながら、すましてだな、 いよいよそこさ嫁さ入ったわけだ。なんぼ晩経(た)っても うんともツンとも到来ないていうのだな。息子がな、嫁もやきもきしてしまったて。
「なんだて、おかしない人なもんだ。こいつ見せたら、いくらか気分出すでない か」
 て、ある朝、御飯どきに起きて行くとき、先に起きていたら、コカラコカラて 見っだから、ちょうど鼻先さグラリまくって本物見せだって。ところが奴さん、 ぶったまげた。「おっ」て言うたけぁ、もっくら起きて仕事着一枚引っかけてとび 出てしまった。
「何だて、どこさ行ったんだかな」
 て思って、ところが川向いのおばさんどこさ行った。おばさん朝起きて、竃さ 火焚きつけてプープーしていたら、「おば、おば」て、怒鳴り込んだていうなだ。
「何だ、今ごろ」「おばのテンツ野郎」「何だごんだ」
「何だごんだも、かんだごんだもあるもんでない。無傷者だからもらえもらえて 言うからもらったら、あの古傷、あんな古傷持った者、無傷者だなて、よく言う たな」
 おばも何だか分かんねて言うんだな。
「何か間違ったことでもしたんでないかなぁ。何なごんだ」
「何なごんだも、かになごんだもあるもんでない。とにかく行って見て呉ろ」
「行かねど分かんねか」
「分かんねから言うてんなだ。とにかく今すぐ」
「仕様ないもんだ。ほんじゃまず行ってみっから、誰それ起きて御飯の火見てろ。 何を語っていんなだか、今すぐ来いなんていうから行ってみっから、ちょっくら 見てろ」
 ほして出かけたていうんだ。ぐるっと廻って橋があるんだげんど、川漕いんだ。
「何だ、川漕いだりして」
「橋なて廻っていられっか」
 ほうしてダボダボと川漕いで行っちまった。かなり水深かったから、仕方ない からおばも尻、グラリまくって、その後から漕いで行った。奴さん向かい側に行っ て見っだけぁ、おばのどこ、ようっく見てて、
「何だ、おば、おばも古傷あんな」
「なに」
「おばも大した古傷だ」
「何したもん、ははぁ、この野郎、これ言うてるんだな、ああ、そうか来い来い、 こっちゃ」
 そしてその向い側の萱やぶの陰さ引っぱってって、 「この古傷はこうするもんだ」
 て、その使用法教えた。
「家さ帰ったら、嫁もらったら毎晩こういうことするもんだ」
 て教えて、おば帰って行ったてだな。まだダブダブと川漕いで行ってしまった ど。
「何だて、ひどいヤバチィことするおばだ」
 と思って、ちょっと股倉見たら、今まで皮スポンとかぶっていたな、皮がなく なっていたていうなだな。奴さん、ぶったまげてしまったんだな。
「おば、おば」「何だ」「おば、おれの皮盗んで行った、んねが」「なに」
「おば、おれの皮盗んだべ」
「盗んでなの来ね、そこらさ落ちっだから探ねてみろ」
 て、おば振り向きもしねで行ってしまった。奴さん、萱株の陰あっちこっち探 したら、うっかりカメ蜂巣食っていたカメ蜂の巣ふんづけた。うわぁと、カメ蜂 出たから、これぁ大変だ。こんどは皮どこでない。口笛吹いて、シーシと逃げた ていうんだ。こんど大丈夫だと思って、そこでちょいっと見たれば、皮かぶって いだって言うんだ。
「おば、あったあった。カメ蜂ぁ盗んでいだんだった」
 て言うたど。
(宮下 昇)
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