30 南の山の馬鹿聟

 南の山さ聟に行んことになった。とんな馬好きな若い者だった。いよいよ今日 馬とも別れて南の山さ聟に行かんなね日来たていうわけだ。そうすっどその聟ど の、毎朝馬の水浴せ。南の山ではまたどんな風にして御祝儀したらええであろう て、親族会議開いた。下手なことして、開(ひら)けた どこから聟さんもらうに、笑わっでいらんねがら、 先様のやることかまわず真似したらええだろう。 そしてそれ他ないだろうて待ってだど。 そしていよいよその日になってはぁ、朝から準備したり何かしていた。 聟さん、馬と最後の別れで仕事着一枚着て細(ほそ)こ帯しめて、 川さ行ってきれいに洗って、 そうしてトットッ、トットッ、馬さのって裸馬で家さ帰る途中、 何たまげたか馬とび出した。ドウドウ、ドウドウと手綱引っ止めっけんども、 止るもんでない。ボンボン、ボンボンと走り出して、いや、 乱れてしまったていうなだ。それから止めるなんて性ないから、すっかりタテガミさしがみつ いて、落ちないようにだけはぁ、要心してはぁ、かまわず気のままに走って行っ た。ほして一軒の家さ行って、ポンと止まった。見たら今日聟に来る家の前さ止 まった。途中走っているうちに細こ帯は千(ち)切っでとんで行ぐ。 仕事着は吹っとんで行ぐ。 褌もとんで行ぐ。丸っ裸になって裸馬さのってそこの家の前さ着いだて いうんだな。そうしたら、先に見合いして知ってるもんだから、
「そう、聟さま、ござった。何だ、早いこと、聟さま、どんな格好してござった」
「丸っ裸でござった」
「さぁ大変だ。んじゃらみんな紋付脱いでしまえ」
 そうしてこんど、それ脱げ、それ脱げていうもんで、家内中丸裸になってしまっ た。そうして、
「お早いお着きでございます。さぁ、どうぞどうぞお上がり下さい」
 ていうもんで、座敷さ上げたていう。そうして早速はぁ、お膳など、まだお料 理などよっく出ないなたげんど始まったていうなだ。そうしてずらりと並んで、 嫁(むかさり)も丸裸、仲人もおどっつぁまもみな丸裸でずらりとお膳さ座ったていうわけ よ。ほうして最初片方の手で押さえていたていうわけよ。ところがいよいよおサ ンコトになったら、盃、片手で具合悪いていうなだな。それから仕方ないから、 お吸物のお椀の蓋さ股倉さ置いだんだど。ほうしたら、
「ははぁ、こりゃ、こういうことするもんだな」
 と思うて、お仲人さまもお吸物の蓋とってかぶせる。嫁さも仲人カミがかぶせ る。全部股倉さお吸物の蓋でかぶせたど。そしておサンコトやったど。だんだん 気力が落付いて来たところが、ちらりちらりと横目で嫁の太股の辺り、めきめき と気分出して来たど。それから仕方ないから、こんど膝さギッチリはさんでいた ていうんだ。そうしてやっているうちに、足がしびれて来たていうんだな。あん まり固く膝まいていたもんで、足少しすべらしてやったていうんだな。ところが 股さはさんでいたの、はずれて、お吸物の蓋がポーンととび上がって天井板さカ ランカランと吹っとんで行った。そうすっどお仲人さまやっけんども、なかなか とばないていうんだ。こんどは手でおさえて、突っかけて振っけんども、うまく 行かない。ほうすっど仕方ないもんだから、お吸物の蓋おさえて、親指のシッペ でポーンとはじいてやったど。ほうしたら嫁付き、仲人かみがやる、嫁がやる、 いや、お吸物の蓋の雨だていうんだ。座敷中バラバラになったしまった。
(宮下 昇)
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