20 鳥呑爺

 むかしあったけど。
 じじぁ、向い山さ柴刈りに行って、昼飯食って、昼眠しったらば、とても晴れ た春の日で、山桜やこぶしの花盛りで、とてもええ気持ちでうつらうつらしてい たら、ちょうどそばの木の枝さ、きれいな鳥ぁ飛んで来て、とってもええ声で面 白く鳴いっだけど。
「何て鳴くのかなぁ」
 と、よっく聞いていたら、
   アワチュウチュウ
   ニシキサラサラ
   五葉の宝を持って
   チチンプンプン
   コロコロ キップッピイ
 と、それこそ美しい声で節面白く、何べんも何べんも鳴くもんだから、じじぁ 口ぽかんと開けて見っだらば、その鳥ぁパタパタと飛んで来て、あっという間に じじの口から喉さチョロンと入って行った。なんぼシャブキなどしたたで出て来 ねがった。
「さてさて、困ったことになってしまったもんだ」
 て考えていたらば、何だか小腹病めてきた。ほうして屁出そうになったもんだ から、思い切って屁たっでみた。いや魂消た。その屁ぁ、
   アワチュウチュウ
   ニシキサラサラ
   五葉の宝を持って
   チチンプンプン
   コロコロ キップッピイ
 て鳴ったど。その鳥の鳴き声と同じもんだど。さぁ、じじぁ何べんも屁たっで 試してみたげんども、何べんたっでも同じ小鳥の鳴声しか出ねもんだから、こん どは早く家さ行ってばさまに聞かせなんまえて思って、すっとんで戻って来た。
「ばさま、ばさま、早く出て来てみろ」
「なんだ、じさま。どこか痛くでもして来たか」
 心配顔で出て来たば、
「いか、いか、おれの屁聞いてみろ」
「何だ、屁聞けざぁ」
 尻ひったぐって屁たっじゃれば、何とその屁ぁ、
   アワチュウチュウ
   ニシキサラサラ
   五葉の宝を持って
   チチンプンプン
   コロコロ キップッピイ
 て鳴ったど。さぁ、ばさまもびっくり仰天した。
「いったい、なじょしたごんだ」
 て言うから、「実は山で、これこれで…」て聞かせたど。それから隣近所の人々 招ばて、時々その屁聞かせた。みんな喜ばせていたごんだど。その話はだんだん と弘まって行って、殿さまの耳さ入って、お城さお招び出しになった。ばさまも いろいろ心配して殿さま不調法になんないようになんて、新しい褌しめさせたり、 きれいな着物きせたりして、お城さ出かけて行ったど。
 お城の門番に、
「あたしは簗沢の屁たれじじでございます」
 と言ったら、門番、お達しがあったと見えて、さっそく奥さ通されて殿さまは 一段と高いところから、
「これこれ、その方、屁たれじじいか、聞くところ、その方大変面白い屁たれる そうだが、苦しうないから、ずうっと近寄ってたれて聞かせよ」
 とのお言葉あったど。「ははぁ」とかしこまったど。「しからばごめん」て、う やうやしく着物まくり上げて、褌をはずして屁をおん出して、恐る恐る屁たれた。 思うように出ず、ふるえ声だった。その屁は、「アワ…チュウ…チュウ…ニシキ… サラサラ…、五葉の宝を持って、チチン…プンプン…コロコロ…キップウピイ…」 なて、ふるえる屁しか出なかった。殿さま、
「苦しうないから、思い切って、たっでみろ」
 ていうお声かかったもんだから、ははぁと心得て、ふんばりふんばって、思い 切ってやった。
   アワチュウチュウ
   ニシキサラサラ
   五葉の宝を持って
   チチンプンプン
   コロコロ キップッピイ
 これぁ大したもんだ。「こんどはちいと節つけてやってみて上げべぇ」と思って、 腹へっこましたりふくらましたりして、節つけて、「アワチュウチュウ、ニシキサ ラサラ、五葉の宝を持って、チチンプンプン、コロコロ、キップッピイ」
 さぁ、まず、腹などへっこんで行って、尻の孔など少々痛くなるくらい。ほう していっぱい聞かせ申して大変おほめにあずかって御褒美山ほどいただいて家さ 帰って来たど。ばばは大変喜んだ。みんなその話していたら、隣の欲ふかばば、 そいつ見て、
「そんじゃ、おらの家のじじも、屁たれにやらんなね」
 じじさ話して、前の晩げに食いもの、たんともないな、ありだけ、腐れかかっ た芋だの牛蒡だの、屁の出そうなもの、ありだけ煮て食せだ。じじぁ腹くっつく て食んねていうの、屁ぁいっぱい出るように、まず無理して食え、食えて食せた もんだから、その晩げ、じじぁ腹病(や)めて、 やっとこらえて朝げ早く起きて、じじどこ追い出してやった。 じじぁ途中で腹病めっけんども我慢して、これぁ屁ぁ溜っ たんだべと思って、そしてはぁ、やっと殿さまんどこまで辿りついた。ほうして 門番さ申上げだらば、
「うわぁ、また来たか、早く屁聞かせろ、殿さまお待ちかねだぞ」
 て、早速殿さまの前さ出ろなて言わんねうちに、のこのこ出て行って、ほうし て真黒い汚い褌ふったくって、はずして、ほうしてまずはぁ、やっと耐 (こら) えっだ屁、 ありだけ思い切ってたっじゃもんだから、さぁ腹のとけっだその屁の種子ぁ一面 にびりびり、びりびり、ぶぁーていうじどはぁ、大広間一面吹っとんで行った。
 さぁ、殿さまの顔から、ぐるりにいる御家老方や腰元衆、顔や着物は糞だらけ になって殿さま怒って、
「無礼者、屁の口とめろ、屁口とめろ」
 大声で怒鳴って、庭先さ引き出さっで、さんざんに引張だがっで、ほうして傷 だらけになって、手打ちだけはやっと許さっでほうほうの態で帰って来た。家で は、「じじぁ殿さまから御褒美いっぱいもらって来るんだか」と思って、ばば、屋 根の上さあがって、それこそヘラで尻叩いて待ってだ。ところがじじぁ向こうか ら唄うたって来た。
「おらえのじじぁ、唄ったこともない花笠音頭など唄って、なんぼうれしいだか」
 て、だんだん近づいて見たら、唄でない。泣き泣き来たずま。
「ううん、うん。んだから、ばば、食んね食んねていうもの、いっぱい食せたか ら、おれ腹とけて殿さまの前でビリ糞出てしまったんだぁ」
 て、泣き泣き。
「なんだ、その様(ざま) 、まず」
 なて、ばば怒ってみたて仕様ない。じじぁ頭傷だらけ、ここらなの血だらけな て来てはぁ、後は何日 (いつか) も何日も寝込んでしまった。んだから人の真似して欲たけ て、しもさんねこと絶対するもんでないけど。どろびん。
(宮下 昇)
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