9 空寺の化けもの

 ずうっと旅廻って行って、暗くなって泊めておくやいて言うたど。
あんまり様(ざま)の悪い身なりしったもんだから、
「おらんどこぁ、今夜お客さまあって泊めらんねぇ」
 隣どこさ行って聞くど、
「おらんどこは病人があって泊めらんね」
 ほうしてどこさ行っても泊らんね、ほうすっと、おしまいの家で、
「おらえんどこはとても夜具もなくて泊めらんねげんど、裏に空寺一つある。そ こでもよかったら、かまわず行って泊まって行ぎやったらええがんべ。んだげん ども、あそこ、昔から化物出るて言うてるもんだから、そいつ気付けて…」
「いや、化物なんぼ出たて魂消ね」
 て行って泊まったど。化物出てきた。
「何の化物だ」て言うたら、
「おれぁ、納豆の化物だ」
「納豆になられっか」て言うたら、
「てんつ野郎、納豆になの、ならんねえ」
「なって見せっか」
 て言うたら、茣蓙の端おさえて、コロコロ、コロと茣蓙にくるまって音立てな くなった。ほいつ、「おかしいな」と思って開けてみたら、ぶるぶるていう納豆に なっていた。そうしてもらって来た餅焙っていだなさ、そいつみなつけて食って しまった。
 また化物ぁ出てきた。
「頭ぶんなぐりっこしろ」
お釈迦さまの前さ行って、
「よし、よかんべ」
 て、こんど、キンかぶって化物さ、「にさ、先に叩け」。ほうすっどヨーシとい うもんで、化物は拳骨さ息ハァーッとかけて、頭を割れるほどひっぱたいだ。ゴ ンゴーンていうど、「痛い」て、化物の方で言うて、こんど「ニサ、叩け」て言う ど、キン叩き棒の大きなで後ろさ廻って、ありったけの力でボカーンと叩いたら、 ギャーッと言うた。そうしてがたがたとお釈迦さまの裏の裏窓破って逃げて行っ た。ほうしてゆっくり眠って、朝に目覚めたら、村の人ぁ、
「さぁ、あの和尚は、化物に食(か)っでだべぞ」
 て来てみたら高いびきで眠っだ。起こさっで、
「なんだ、化物来なかったか」
「化物来たった。昨夜(ゆんべな)なぐり殺して、おれ、ぶんなぐってやったから、行ってみ ろ」
 て、そしてずうっと行ったらば血たらして、穴さ入り切んねで、穴の入口で倒っ でいた大きな狢、頭割っで、そして手の甲は赤むけになってキン叩いたのでな、 そして死んでいだど。
「いや、えらい坊さまだから、ここの和尚になっておくやい」
 て言わっで、住みついだど。どろびん。
(宮下昇)
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