6 魚女房

 むかしあったけど。
 どこさ行ったときだか、子どもら、魚、何魚だか捕 (せ) めていたどこ、助けて、そ して家さ帰っていたら、よっぽど経 (た) ってから、きれいな女、
「泊めて下さい」
 て来たど。いろいろ聞くど、
「いそぐ旅でないから」
 て、長く助 (す) けて呉っでいたど。留守番などしてもらったもんだから、親父喜ん でいると、毎晩、ハラコ汁のお汁から何から拵って御馳走するもんだから、大変 に、
「不思議だな、こがえなハラコなど買って来て、おれに御馳走するもんだ」
 と思って見ていたど。そしてある時、
「ちょっと魚でも買って来たいから」
 て出かけて行った。
「今日など帰って来っか、帰って来ねが分かんね」
 と思って来てみると、とっくに帰って来ていたもんだから、
「魚買って来たか」
 て聞いたれば、
「行ってみたげんど、なかったもんだから、買って来ねがったげんど、残りあん なだから、御馳走すっから」
 て言うから、見る気もなくて、料理場のぞって見たらば、鮭 (さけ) のよに化けた体を 現わして、一生けんめいに卵産していたど。
「ははぁ、こりゃ、前に助けた魚、恩返すためにこういう風にして、ハラコ御馳 走した」
 と思っていたど。次の日になってから、
「ながなが御厄介になりました」て言う。
「そがえに帰って行かねで、いまちいと家にいてもらいたい」
 て言うたば、
「おとうさんが、ゆうべ、おらの卵産すどこ見てあったべ」
 て言わっで、そしてこんどぁ、その魚、前の池さドボンと落ちて、魚になって 海さ帰って行くどごだったど。
(関場亥之助)
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