35 鬼子母神

 子どもを百人もったおかぁさんがいだった。ところが自分の子どもはかわいく て、かわいくて、どの子どももめんごくていたんだげれども、鬼のような気持を ちょいちょい起して、人をとって食うようになった。自分の子どもを食わないで 他人の子どもをとって食うんだど。
 ところがある時、その子ども百人中の一人を神さまが隠してやった。ほうすっ ど、一人がいないので、非常に魂消てしまって、毎日まいにち、気狂いのように なって探していた。と、そこに出てきたのは神さまで、
「お前は、なぜ子をとって食べんのだ。そんなに食べたかったら、百人の子ども いるんでないか、自分の子ども食べたらどうか」
 こういわれた。ところが親と子の愛情というものはちがう。
「自分の子はかわいい、他人の子はかわいぐない」
 というようなことから、こうして他人の子をとって食っていたんだげんども、 その時にいわれたことは、
「百人いたもの、一人ばりいなぐなったて、そんなに気狂いじみてさわぐことあ んまいな、一人しかいない、二人しかいない者にとって、食べられたら、どれほ ど親の悩みが多いだろう。そこを少し考えてみなさい。これから先、この子ども をとって食うなら、ただちに処罰する。みなの子どもを殺してやる」
 ていわれた。して、そのかががあやまって、
「いやいや、そういうわけだ、ほんではおれが悪いがったから、今後はとって食 うということではなく、みんなの子どもをわたしが病気から守って立派に育つよ うにするから、どうか勘弁してもらいたい」
 といって、あやまって、それ以来子どもの守神として祀られ、子どもを守って いるど。これが鬼子母神というもんだど。
(平田幸一)
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