34 彼岸のわか

 今日行って、お彼岸だから、お佛あそばせして来 (く) んで、米持 (たが) って、ばばが出て 行くとき、じじが、「また、わかさが」
「お彼岸だもの、わかさ行ってお佛出して喜ばせてくれんべ」
「ええがんべ、よく訳わかっているごんだな、おら家のばばも」
 ほしてこんど、ばさまが出て行った後に、お佛さまから位牌、掛図全部おろし て、縄の切れっこでまるって、椽の下深く入っで、じさまは待っていたど。
「ばば、なじょな顔面 (つら) してくるもんだか、今日、何言わって来るんだか」
 ていうわけでいたところが、お昼ごろ、ばば帰ってきたど。いや、見たところぁ 青い顔面している。いつものばばでない。
「ばば、ばば、何だ、顔色われなぁ」
「いや、じっちゃ、今日はなぁ、困ったごんだ。何かあった。どの佛もどの佛も 縄目に合って出らんねごんだということ言うんだ。いつもだと、座敷を借りて出 たといって、隣のじじも出てみたり、考えね先祖出てみたりしていたんだげんど、 今日に限って誰一人出らんんね、縄目に合って出らんねていう言葉だけだった。 がっかりしてきた」
 といって、じさまに話したところぁ、じさまは、
「いや、そうか、いや、本当はこういう風にしったなよ。われぁ、訳分かっていっ から、ほっげなことと思って、おれぁ試してみたんだ」
 て、ほら、って椽の下から出してきた。お掛図やら位牌やら、全部縄でしばっ たな。そうすっど、じじもたまげてしまって、
「これはとんなこと、不調法なことしてしまったもんだ」
 やっぱりお佛さまはあるというて、ばばさ手ついてあやまったど。
「これから、絶対こういうことしない」
 てだど。どろびん。
(平田幸一)
>>米沢市塩井の昔話 目次へ