29 狐に化かさっだ話

 小松から、昔、米沢に正月買いだ、何だていうと来 (く) んなねがった。
 その間に松林が大分長いく続くどこあんのよ、小松の近くに。そこにたまたま 狐が出て、人が化かされたという話があったもんだ。
 ところが、ある人が米沢に買いものに来て、お正月の料理だから、たくさん買っ て行かんなねわけだ。んで、そのあたり菰にたいがい塩引なんていうもの包んだ り、カラカイなどくるんで首にかけるように縄を通して来たもんだ。ところがそ のお客さんはいろいろ買って最後に塩引の頭二・三買ったていうわけだ。
 やんさと肩さかけて家に帰る途中、その夕方でもないげんども、うすぐらくなっ てきたような風なとき、うしろから追っかけてきた。そして首のもの引っぱるて いうんだな。それから何だべと思ってうしろヒョイッと見っど、誰もいね、また てくてく歩いて、またうしろからグィーッと引っぱるので、縄、喉さかかって、 切ないもんだから、手、ちょいっとやってみたら、狐だった。そうすっどその親 父もなかなか横柄な親父であったから、
「野郎、おれどこは化かにさんねごで、人どこよく化かにするそうだげんども、 おれどこ化かにはさんねごで」
 ていう。だんだん松林の中さ入って行ってしまった。してるうちによ、うすぐ らくなった。また荷物に手かけた。
「こら、この野郎、われに食せんな買ってきたんでないぞ、こいつで年取りしん なねなだ。にさなような者(お前のような者)さ食せられんめぇちゃえ」
 て言うわけで、一人言いいながら行ったど。
 それからうちに、真暗になってしまった。向うに灯りがともった。
「さてさて、家さ来た」
 と思って家の前まで行って、
「かか、今帰った」
 て言うたそうだ。
「あら、何だ、とうちゃん。遅いもんだから心配しったなよ」
 て、出てきたのは、カカ。
「カカ、カカ、どうせ何だから、いっぱい買ってきた。塩引から何から……」
 て、おろしにかかったところぁ、カカ魂消て菰の包みを見っだけぁ、
「何だ、とおちゃん、魚買ってきたって、たわえないこと。魚でなどないごで。 人の生首だごで」
 て言うたど。
「馬鹿語んな、生首なて、たわえないこと語んな、塩引の頭 がんた あったから三つ四つ 買って来たなだ。よく見ろ」
「いや、見だたて、塩引の頭でないコ。生首だてコ」
 て、ほして、カカが一つ持 (たが) ったのが、生首だったど。そうすっど親父はぶった まげてしまったど。はっと思っていたところぁ、目が覚めた。ポカッと明るくなっ た。そんどきには菰の中には何もなかったど。狐は一人だと化かにされっけんど、 二人だと化かにさんねもんだど。

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