27 お恵比須さま

 恵比須さまはおかたの持たね人た。
 んで、お恵比須さまの御祝儀だと称して、十月二十日に恵比須講のときに、股 大根をカシの葉に包んで藁でしばって、それをお供えとして恵比須さまのお祭り をするわけよ。お神酒上げてな。
 そいつのいわれは……。
 お恵比須さまは餅好きな人で、一 (ひと) 食いに五升食わないでは食った空ないのだど。 そういう大食家であった。んで、お恵比須さまは餅好きだから、一晩招ぶべて、 招んでくれたとこあった。ほして、まず、
「五升は上がんなだから、家の人も食うべから、ちょっと余計にしろ」
 というわけで搗いたんだげんども、家の人はお恵比須さまさばり、余計に食せ んべと思って、余計に食せたど。
「いや、これはうまい、これはうまい」
 て食って、まず、
「こんで、たくさん食った」
 ところが、余ったもんだから、
「このように好きでいやったもの、いまちいと食 (か) れっこで」
 て言うわけで、すすめたていうわけよ。ほうすっど好きなもので、
「んじゃ、いま少し御馳走になっか」
 て、食ったところぁ、とてもとても、いつもと違ってこんど苦しくなってきた ていうわけだ。ほして、まずはぁ、おいとまも早々にして帰り道途中で、娘こが 川で大根洗いしったてだ。秋だから。ほして、
「大根食いたいなぁ、大根食うど消化がええ」
 ということで、
「大根一本呉っでけらんねが」
 て頼んだど。娘の言うことにゃ、
「これは一本、なんぼで頼まっで、おれぁ洗っていんなだから、上げらんね」
 て、ことわったわけだ。ところが娘も賢こいもんだから、いじっているうちに、 股大根みつけたていうんだな。そうすっど、
「股だから、片一方もいだったて、一本は一本だ」
 ていうわけで、もいだ一つをくれたて言うわけだ。ほうすっどお恵比須さま喜 んで、むちゃむちゃ生で食ったわけだ。
 して、腹の方もこんどはすうっとしてきたわけだ。それでお恵比須さまが命び ろいした。それからおかたていうものを持っ気はない。んで、御祝儀と称して大 根を上げてもらう。それがおかたとして命の恩人だから、かかとしてお恵比須さ まは満足している。
 んだから、お恵比須さまに上げたお供えは、若衆には食わせんなよて言うてる。 嫁、聟前は食 (か) せんな、もし食わせっどきは夫婦の者が半分かじってくれるか、ぶっ 欠いて呉れるか、そうして食わせろという。
 お恵比須さまは独身だから、お恵比須さまのもの食うど、嫁に行かんね、聟に 行かんねていうど。また餅さ招ぶときにはオロシ(大根)をすることになってる のもそれだ。
(平田幸一)
>>米沢市塩井の昔話 目次へ