24 朝茶

 あるどこに、おばんちゃと孫と二人暮しの家あったのよ。ほんで孫が山仕事しっ たど。毎日々々、山に木伐りしたり、炭を焼いたりして行ったど。ばばが年も取っ てるもんだから、「誰それ、朝茶のんだか。」飲まねなて言うど。
「ほんじゃ、飲んで行げよ」
 と言って、必ず朝げお茶をのませてやっていだった。
 ところがある日、飲まないで出て行った。すっど年寄りは心配して、
「今日、お茶ものまねで行ってしまった。おれも忘せだった」
 て言うてたところが、孫がもどって来たんだな。
「ばっちゃ、ばっちゃ、お茶のまねで、今日は出て行ってしまった。思い出した から、もどって来たどこだ」
 そんで戸の口のとこまで来たど。そうすっど屋根から大蛇がいつか呑んでくれ ましょう、そのばさまを呑んでくれましょうと、屋根の棟の下から大きな口あけ てねらっていだんだそうだ。ところが、ばばは、「朝茶のんで行げよ」て言うのが、 その発音が年寄りなもんだから、「朝、蛇のんで行けよ」て、こういう風に孫に言 うてだ。つまり「蛇」のめていうことになってしまって、蛇は、おれがのんでや ろうと思っていだな、おれの方がのまれっこんでは大変なごんだ、て、それから その家引けて行ったど。朝茶は災難よけになっから一里もどってものめというた とえがあるんだど。
(平田幸一)
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