8  笠地蔵

 あるどこに、じっちゃとばっちゃが二人きりで生活しったど。
 なんぼ働いても、年寄りのことで、ほだえ裕福な生活できなかった。まず、大 晦日のことだったが、
「じっちゃ、じっちゃ、正月も来たことだから、何か買ってお年取りしんなね、 んねが」
 という話を二人でして、じっちゃは、
「それにしても金もない、困ったことだ。んだげんども火も焚けない。んだから、 炭の一俵も買ってこようかな」
 というわけで、
「クキナ湯でものんで、したことにして寝られるんだから」
 というわけで、町へ出かけてた。ところが、途中に地蔵さまが雨に打たれて立っ ておったど。じゃんじゃん雨は降ってくる。その中をじっちゃが行って、
「はて、炭買うのだが、あの地蔵さまはあわれだ。この雨の降る中に笠もかぶら ず、ああして雨に打たれて、地蔵さま、かわいそうだから、炭など買わなくとも ええ、笠一蓋 (いつがい) 買って行ってかぶせて行んかなぁ」
 ていうわけで、笠一蓋かって地蔵さまの前に行って、
「地蔵さま、地蔵さま、笠買ってきたから、これで雨しのぎなさい」
 ていって、家さ帰ったど。
 ばんちゃは何買ってきたと思って、待っていたけれども、何一つ買ってこない。 炭ということも言ってやったんだが、炭一俵買ってこなかったど。そして、
「実は、こういうわけで来っどきに地蔵さまに、かなりあわれなもんだから、笠 一蓋買ってかぶせてきたもんだ。仕方ないから、今夜はまず火でも焚いて、クキ ナ湯でも飲んで寝んべはぁ」
「いや、ほだごでなぁ」
「仕方ないごで。銭もないべし、買わんねも。そうしんべなぁ」
 ていうて、二人が床の中に入ったど。
 そうしたところぁ、夜中になって、
「じじぁ家ぁどこだべな、ばばぁ家ぁどこだべな。まだあっちだべ」
 ていうて、あまたの者が、ダイモチを引いてきたど。
「ああ、ここだ、ここだ。じじぁ家ぁここだ」
 て、玄関先さ来て、ドシンと落して、後は帰って行ってしまったど。じじとば ばは、またすっかり眠もやらずいたので、何だろうと思ってみたところぁ、すば らしい大きな荷物がある。玄関先におかれてあったど。それを二人で開けてみた ところぁ、炭から米から金から、たくさん入っておったと。
「はて何だろう。ふしぎだ。いやいや誰かがおれにめぐんでくれたんだ。ばばちゃ よ。これはたしかに地蔵さまの、あいつであんまいか、炭買おうと思って家を出 て行ったんだが、笠を買った。その炭も米もある。銭もある。たしか地蔵さまだ」
 ていうわけだ。また二人でもって地蔵さまさ行って、ええ年とり迎えたけど。 そしてこんどじっちゃ、炭も出たもんだから、ユルリさどんどん起して、ほして 当ってねんべはぁというていたところぁ、ユルリの隅 (すま) こから、
「いやいや、ずいぶん長く住んでいたげんども、こがえなどこにいらっじゃもん でない。早く出て行くべぞはぁ」
 て行って、出だして行った。それは貧乏の神が長年住みついていたのが、火ど んどん焚かれたためにいらんねぐなってしまって、出て行ってしまったんだど。 それからは、じっちゃとばっちゃは裕福な、仕合せな年を迎えたという話だ。ど ろびんけんすけ。
(平田幸一)
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