32 四百ぶらりん

嫁と姑て仲悪いもんでよ。
 ある家の嫁と姑すごく仲悪るがった。ところが和尚さまが持齋に来たって。そうして風鈴振ったもんだ。何かして、
「あの、和尚さま、風鈴持(たが)って来たぜなぁ」
 なて言うた。
「あいつぁ風鈴でない、法鈴だごで」
 て、また始まったんだごで。ほしたら、
「何語ってる嫁の分際で、風鈴だず、あいつ」
「なんぼ、おっかだって、法鈴だ、あいつ」
 まずはぁ、ヤンヤンとやって、風鈴だ法鈴だて言うてラチがあかねもんだから、稼がねで喧嘩してらんねもんだから、嫁さんが稼ぎに出かけた。
 ところがくやしくて、負けず嫌いで負けていらんねからって言うもんで、和尚さまさ来て、
「あいつ何だべ」
 て言うたら、「んだなぁ」て、和尚さまも言わねがったど。喧嘩して来たって言うもんだからよ。ほしたら銭二百呉っじゃごんだど。
「こいつで、どうかおらえのおっかどこさ、法鈴だって言うて呉ろ」
「そうか」
 て、和尚さま言うた。
 こんど、嫁、稼ぎに出た頃だから、おれぁ和尚さまさ行ってみんべと思って、おっか、早速和尚さまさ来て、
「あの、今朝持ってござったの、風鈴だどらな」
「おれ持って行ったな、なぁ」
 こっちから銭とってた勘定あるもんだから、なかなか言いづらいべも…。
「んだなぁ」なて言うたら、
「そうも言うごでなぁ」
 なて、煮立たねふりしてだ。
「おれ、嫁と喧嘩して、大喧嘩まぐって、おら家の嫁は馬鹿できずがって、法鈴だどて聞かねから、おれ、風鈴て言うに聞かねもんで、喧嘩やって来た。ほんじゃ風鈴にしておくやい」
 て、二百、また呉れだって。
「こいつ少しばりだげんど、お茶でも買って飲んでおくやい」
 て、いらないからて言うに呉れて、また夜家さ引っこんで来たら、喧嘩の盛り返しできた。やんや、やんや、風鈴だ、法鈴だて、同じこと喧嘩した。
「ほんじゃ、聞きに行ったらええごで」
 て、二人自信あるわけだじだな。ほしてこんどどっちも気強くて、和尚さま考えだ結果よ、
「あれはなぁ、むずかしい言葉で言えば、風鈴でもなくて、法鈴でもなくて、四百ぶらりんだ」
 て言うたど。どろびん。

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