30 一言千両

 ある農家の親父が、出稼ぎに行ったてよ。金に困って出稼ぎに行った。正直で名とった人が、出稼ぎに行って三年も働いた。そしてそのお金持(たが)って、ぜひとも返さんなねからと思って帰ってくる途中でよ、髭ぼうぼうと白髭生(お)やした仙人みたいな人出て来て、
「道中が長いから、おれの言葉通りにしろ」
 て言うもんだから、「はい」て、正直なもんだから言ったら、
「大木の下より小木の下」
 て言うたてよ。
「これは千両の言葉だぞ」
 てよ。それからこんどは、
「なる堪忍は誰もなる、ならぬ堪忍、するが堪忍」
 て言うたって。ほして銭、手ぶらに、老人に取らっでしまった。ほしてはぁ、つまんねくてはぁ、夜通しかけて食うものも食わないで、家さ帰るべと思って来たら、途中で雷鳴ったって。そうすっど大きな杉の木あったから、濡れたくないから、あそこさ休むかなぁと思ったげんど、そん時思い出して、「大木の下より小木の下」て言わっじゃもの、この藪さ入って雨宿りしんべと思って、藪さ入ったら、ところが大きい木さ雷が落っで、その木がさけだって。
「ああ、ほんに、あれは神さまだった。おれぁあの木の下さ休めば死んでしまうなだった。ええがった」
 と思って帰ってきた。家さ来たて言うがと思ったら、家の中でゴモゴモ、ゴモゴモて語ってる音する。
「はて、誰来ったべなぁ」
 と思ったら、かがが、
「何もないげんども、一つまず、一膳上がっておくやい」
 なて言う。と、悪い心持ち出して、
「おれの留守に、如何なごんだて男寄せていたに違いない、おら家のおっか」
 なて、ガラリ開けて殴って呉れっかなぁと思ったげんど、
「いやいや、じんつぁに教えらっで来た。なる堪忍が誰もなる、ならぬ堪忍、するは堪忍て教えらっじゃもの」
 と思って、「今来た」て言うたって。
「あららら、親父来たか、ええがったまず」
 て入って来てみたらば、ドデラ着せた木の根っこ炉端さ置いっだの、そんでこういうことで、年寄りな白髭の人出てきて、おれの銭ぺろっと取ったごんだ。ほんではぁ、三千両の言葉教えらっで、三つの言葉買って、一文も持(たが)かねで来たから勘弁して呉ろて言うたら、
「そのことなの、さっぱり差し支えないから、その三千両の言葉ありがたかった」
 て言うたど。
「何年待ちでも来なくなんな、その言葉聞いたばっかりで、藪さ雨宿りしたことで生きて帰って来らっじゃなだから、その人は神さまだから、何にもお金とらっだなんて、くやしいと思うことないから、ほんじゃ休んで、なんぼか疲れたべから、休むべ」
 なて、休んだって。て、次の朝起きてみたら、恵比須・大黒さまのどこに何かお財布みたいなもの上がっていた。そして見たら、自分が三年稼いだお金がちゃんと恵比須さまさ上がっていだって。ほんで二人、うんと喜んだなていう話だった。どろびん。

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