28 糠福米福

 むかしあるところに、糠福という子ども一人持って、かぁちゃん逝ぐなったんだど。そんで後からおっか貰ったらば、こんどは米福という子ども生まっだど。同じ女の子でな。ところがこの糠福はとっても気持もやさしいし、顔も美しい子どもだったて。それにひきかえて、米福はあんまり美しくない娘だったど。んで見でっど、かぁちゃんが見っじど、糠福が憎くて、とても憎んでいだんだど。何とかしてこの糠福さえもいなげれば、米福にこの家の後継ぎさせられるなぁと思って、意地悪れごどばっかり語っていたど。そのおっかさがよ。そして何でも米とぎでも、掃き掃除でも拭き掃除でも、仕事でも、みんな「姉さんだから」て、糠福にばっかりさせて、米福は自分とかまわず安泰にさせでだ。
 今日も今日で、お祭りだ。大したにぎやかなお祭りだから、
「おれと米福でお祭りさ行って来っから、この稲こいで、スルス挽いで、食れるばっかりにして来られれば来ればええし、来らんねとき、来らんねごで」
 て、行ったど。ほうしたら「ほうか」て言うたげんど、こんど裏の山さちょっと行ってはぁ、泣いっだずも。そしたら弁当もらって弁当置いで行ったんだからて食(く)うべと思ったら、大根ばっかりで、米など入っていねって。
「こんなもの食って、そうして稼がんなねごんだもなぁ」
 なていたら、そいつを水溜りさバァーッと投げだってよ。その御飯、大根ばっかりで、嫌んだくて。したら、水が青くなったり、赤くなったりしたって。そして今度、何か出て来たど。「恐っかねぇ」て逃げだら、
「恐っかなくない。糠福、おれ、とっくに死んだおっかだぞ」
 て、出てきたって。
「決して、つらいど思わねで、おっかの言うこと聞いでなぁ、そして米福と仲よくしてろよ」
 て教えだって。
「御褒美くれっから、これ、打出の小槌て言うもんだから」
 て。
「打出の小槌、何でも欲しいもの、何々出ろよて欲しいものの名前言うて叩くじど、出るから」
 て教えらっじやど。そうすっど、うれしくてはぁ、そいつ持(たが)って、テンテンと来たど。やさしくさえもしてっど、出んなだから、ええあんばいだと思って、こんど稲こいで、スルス挽くべと思っていたら、友だち、
「糠福、お祭りさ歩(あ)えべ、お前のおっかと米福など朝げから行ってだどら」
「おら、行かんねもの、これからこのスルス挽いて、米搗いで行かんなねもの」
「ほんじゃら、おらだ手伝うから」
「ほだか、ほんじゃ、おれ駄賃出すから、手伝ってな」
 なて、手伝ってもらった。
「お前、何ええ」
 て言うど、
「おらよ、衣裳持ったげんど帯もっていねなよ」
「ほんじゃ、帯が。お前は」
「おら、下駄持たねもの、あっけんども、ええ下駄ないなよ」
 なて。
「お前は…」
 て言うたば、
「着物ないもの」
「んだか」なて、して、「着物出ろ、下駄出ろ、帯出ろ」なて、打出の小槌叩いたど。そしたらみな出て、
「ほら、こいつ下駄、お前は着物、お前は帯」
「んじゃ、ええがった、ええがった。おしょうし」
 なて、手伝って、こんどはぁ、駄賃もらったもんで、喜んで家さ行って仕度して来た。その間に、こんどは糠福、
「おれのも、ええ衣裳出ろ」
 て叩いだら、そんなにええでもない、悪いでもない、ちょうどええ着物出だって。こんどそいつ着て、お祭りさ行ったって。
 ほうしたら、大したにぎやかなもんで、そこさ殿さまも忍びで、出たって。若殿さまも。ほんじぇ、こんどぁ米福、
「あららら、おっか、姉ちゃ来ったぜ」
 て言うた。
「姉ちゃなど、なんで来っこんだ。今頃スルス挽きやっと掛ったべ。来ねごで。おらだうまいものいっぱい食って行くべ」
「姉ちゃにも食せんなねごで」
 て言うたば、「ええから、ええから」
 おっか言うてだど。
「同じだぜぇ」て言うたば、
「大体、衣裳もってないもの。ほがな来(こ)られんめぇちゃえ」
「んだて、友だちといたぜ」
「いや、来ねなだ、米搗きしった、今頃」
 なて、そしてお祭りさ行って、ちいと早く来てはぁ、知しゃんぷりしていたば、それから四五日経った。
 篭持(たが)って迎えに来た人ある。
「糠福ざぁ、ここだか」
「ほだ、何したごんだ、おらえの糠福」
 おっか出て行ったど。したれば、
「何もしないげんど、こういうどこではぁ、糠福という娘見て、大変にええから、お嫁にもらいたいて言わっじぇ、迎えに来たから」
「ああ、ええどこでない、ほがえな呉れる、呉れる、すぐ持って行って呉ろ」
 なて言うた。米福そこ見っだ。お篭なて見たことないもんだから、篭にのせらっで連れて行がっだのを見て、くやしくて、くやしくて、
「おらも、おっか、姉ちゃのように篭さのっだい」
 て、毎日言う。
「んじゃ、仕方ないから」
 て、こんど、おっか、箱さつけて引いで歩ったど。池のぐるりを率いたり、道をひいたりして歩(ある)った。
「姉ちゃのったのど、ちがう」
 て言うげんど、わが子可愛いもんだから、なるだけ似たようにして、拵えて率いて歩った。ところがどうしたはずみなもんだか、むぐってしまったど。途中でその篭が川さむぐっじゃ。ほしてはぁ、「早く早く」なて言うげんども、女の足で追っかけて、なているうちにはぁ、篭さなの乗ったもんではぁ、板(いた)パンコさのったもんだから、がらくたで上がらんねくて、米福死んでしまったてよ。
 ほだから意地の悪いことさんねもんだど。立派にして働いっだ人ぁ、殿さまのお嫁になって、めんごい、めんごいなて育てた子ども、川さ入って死んでしまったど。どろびん。

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