11 クイゴコむかし ―花咲かじい―

 あるところで、じんつぁとばんつぁ二人で暮しったど。ところが白い犬の小さいな飼ってだ。ポチと名付けた。「ポチポチ」て、とっても可愛がっていた。
 したらある時、秋の天気のええとき、クェンクェン、クェンクェンなて、じんつぁとばんちゃと裾くわえて、畠の方さ、ポチなりになって行ってみだって。したら、
「ここ掘れ、クェンクェン」
 て言うもんだから、ポチなりになって掘ってみだって。したら大判小判がいっぱい出たって。ほうすっど喜んで、こんどはそいつ家さ持って来た。そしたら隣のばんちゃ、「火呉(く)ろ」て来たど。
「あぁ、持って行げ、持って行げ」
 て。
「火の種、なぐなったごどが、持って行げ」
「あららら、なんぼこっちの家、金持ちになったこど、米など。そがえ大きい袋さ買って来て、お前だ、ええ裾なしなど着て何よ。まず金持ちになったごど」
「おらえのポチよ、おらだの裾くわえて連れて行くもんで、行ったら、こんど、クェンクェン、クェンクェン、ここ掘れ、クェンクェン、クェンクェン、て足で土、かっつぁいで見せるもんだから、掘ったばお金出てきたんだず。そんでよ、そいつの金でお米買ったり着物買ったりして来たんだ」
 て言うたらば、
「あらら、けなりごど(うらやましいこと)、けなりごど、おれさ貸さねが」
 て言うたど。
「貸したくないげんども、隣だて金持ちになっじゃいべから、ほんじゃ、持って行げ」
 て言うたら、隣のいじわるじんつぁ来て、首縛ったれば行きかねて、行ぎだくないからて、クェンクェン、クェンて泣くな、首縛って無理矢理に連っで行ったど。ほして行かねて言うな、自分の畠さ連っで行って、掘れとも言わねな、掘ったって。そうしたら何だ、それこそ牛の糞(ばっこ)など出てきたり、瀬戸かけなど出てきて、さっぱり分んね。ほうすっどじんつぁ怒ってはぁ、いじわるじんつぁ、くらすけではぁ、鍬でぶん殴って殺してしまったど。
 そうすっどこんど、こっちの正直じいさんとばぁさんが、
「ポチ、よこして呉ろ」
 て言うど、
「知しゃね、ポチなど知しゃねから」
「おれ、貸したくないな借りて。貸したんだから、よこして呉ろ、お飯(まま)食せなねから」
 て言うたば、
「ほだな、ぶち殺した。あの瀬戸かけなどばり出てきたから」
「あららら、困ったごんだ」
 て、はぁ、こんどぁ、じじとばば泣いではぁ、二人で殺しっ放(ぱな)しして投げておいたもんだから、連れて来て、穴掘って埋めてなぁ、花立てて、立派にして、
「じんつぁ、じんつぁ、クイゴコ、おらだどこ金持ちにして呉っじゃも、松の木の一本も植えておけはぁ」
 て、松の木植えだって。ほうしたら、その松、おがるもおがるも、五六年たったら、一丁前の木になった。ほして、
「こいつで、こんどはお金もなくなったしすっから、臼でも拵(こ)しゃって、米でも搗いて食うがはぁなぁ」
 なて、臼拵った、小さなな。そいつでじんつぁ搗いっだ。そしてよっぽど米搗いたらザックラザックラと、こんどみなお金になったど。米がお金になったって。いや喜んで喜んで、また金持ちになって、お米買ったり、お魚買ったり、お酒買ったりしていたら、隣のばんちゃ来て、
「なんだ、また金持ちになったな」
「あの、お前どこで殺したポチさ墓じるしに松植えだば、あんまりにもずんずんおがるもんで、よっぽど大きくなったから、臼拵って米搗いだば、米がみなお金になったず」
 て言うたど。したら、
「ほんじゃ、その臼貸して呉ろ」
 て、また臼借りらっじゃど。
「困ったごんだ、おら貸したくないげんども、貸せてがぁ」
 て、貸してやったど。貸さねなて言うたて背負って行ったごで。
 ほしたらこんどそこの、たんともない米入っで搗いたど。また茶碗かけになってしまったど。したらごしゃえで、斧(まさかり)持ってきて臼ぼっこしてしまったど。割っかいてしまったど。こんどは、
「仕様ないなぁ、臼いつまで経(た)っても隣で返してくんねぇから、臼もらって来(こ)いはぁ、じんつぁ」
 て言うたば、
「臼かえしておくやい」
 て行った。
「臼な、はつけなもの、わかんない。皆瀬戸かけになったから、いたましい、いたましい。何くやしいかしんねぇ、米返済(まよ)ってもらわんなね」
 て言わっじゃんだど。
「返済(まよ)うから、臼ばり返して呉ろ」
「臼なの焚いて、背中あぶりしたはぁ」
「なんだ、臼焚いだごどか」
 て言うたば、
「あんまり寒いから、臼焚いて背中あぶりしたから、臼などない」
「ほんじゃ、灰(あく)、そいつ貰って行くべ」
 て、灰もらって来た。そしてこんどその灰もらって来て、じんつぁ、
  チチンポイポイ コガネサラリン
 なて撒いたど。折も折、殿さまの行列、そこ通りかかったど。ほしたらその灰撒いたな、枯木さみな花になって咲いだど。桜花みたいに満開になって、
「こがえな妙なじんつぁ、ない」
 なて、扇子なの持(たが)ってお殿さま喜んで誉めで、御褒美どっさりもらった。また隣で真似して、
「おれも、竃にちいと残っていたわけだべ、あの灰もって行って、テンテンと行って、
「枯木に花を咲かせる、花咲かじじい」
 なて行って、ふったって。そうしたらあいにく風吹いて来て、殿さまの目(まなぐ)さ灰入ってしまった。しばらっだ。んだから人の真似ざぁ、決して意地悪と、そういう真似すっど、そういう目にあうから。さんねごんだど。どろびん。

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