10 猿と蛙の寄合餅

 猿と蛙が、あるときお盆になったもんで、「おら達も餅食べたいもんだなぁ」て言うたど。そしたら蛙(びっき)がよ、
「おれなんて、のろくて、とっても餅なて食んねから」
 たば、猿、
「ええ、ええ、おれ皆細工すっから…」
「どうしたら、ええがんべ」
 て言うたら、猿智恵さっそく出したって。
「夏だから、暑(あっ)たかいから、表で餅搗くに相違ないから、お盆だから、んだからお前が川さ入って、池(たんなげ)さ入って、赤ん坊の泣き声しろ」
 て、猿に教えらっじゃ。ほうすっど今度は餅搗き始まった頃、隣で餅搗いた。
「よっぽど搗けたな。いまちいと搗かんなねなぁ」
「いまちいとで搗けるなぁ」
 なて言うたど。ほうしたら蛙、こんどきだと思って、ジャポンと入って、コッコ、コッコー、コッコ、コッコーて、言うたずも。
「あら、何だまず、おぼこ池さ入ったんねが」
 なて、それっちゅうもんで、臼、杵投げではぁ、みんな池の方さ行ったって、猿かぐっでで、こんどきだて言うもんで、臼、ゴロゴロとまぐったって。ちょうど山の神の天井の山までまぐったど。こっちで今搗いた餅、臼がらみないなて言うたて、まさか猿、山さもって行ったて知しゃねから、近所ばり探(た)ねで、
「隣でもって行ったであんめぇか」
 なて、そんな馬鹿なこと語っていだ。したらいよいよ山のところまで行ったら、いや蛙の、のろいこと、ちょっこらさっとは来ないって。いよいよ蛙来たら、
「ほんじゃ食うべな、猿どの、恐かったべ、ひどかったべ」
 て、気兼ねしたど。自分がまぐらんねもんだから、したら猿、意地悪れこと、
「駄目だ、この餅、ただで食って駄目だ、せっかくこうして持って来たもんだもの、山の峰さこの臼持って行って、山の峰からこの臼ゴロゴロまぐって、追っかついた人食うごんだ」
 て、こう言うたって。したら「うーん」なて蛙、きびちょした。
「じゃ、おれ、いっこう食んねごで、食んねごで」
「そがなことあんまぇちゃえ、うんと果報だもの、お前、のろいなて言うたて、臼の隅(すま)こさでもくっついて行けば、お前ばり食れっかも知(し)んねぇごで」
 なて、猿言うたずも。自分が自信があるもんで、そうすっどやっと真赤になって、猿、天井まで持って行かんねくて、よっぽど上まで持って行ったど。臼を…。
「ええか、蛙どの、まぐんぞ」
 んだげんど、蛙、きびちょして声立てね。
「ええようにすっどええごで」
 ていたど。
「そら、一、二、三」
 なて、まぐったど。ゴロゴロ、ゴロゴロとまぐった。ほうしたらあんまりにもはぁ、講釈したもんだから、餅は半分の上もはぁ、木の枝さ引っかかって、餅が臼から出きてしまったどはぁ。
 そうすっど、蛙、
「どうせ、おれなどいっこう、一口も食んねなだから、なるだけ静かに行くべちゃ」
 なて、ピタラピタラと山から落ちて来たど。ほうしたら餅いっぱい木の枝さ、ひっかかっていだって。
「いや、よくしたもんだ」
 て、舐めて餅食ったど。ほうしたら猿下まで行って見たば、臼、空(から)だってよ。
「あららら、何だ、おればっかり食(く)てくれんべと思っていたら、蛙は鳴く真似したくらいで、みな持って来たな、おれだもの」
 と思ってたら、今度ぁごしゃげで、ぶつぶつとふぐっで登って来た。したら蛙、
「うまいなぁ、猿どの」
 て言う。蛙、
「おら、拾ったんだもの」
 て言う。「おれにも食せねが」て言うたど。
「駄目、食(か)んねごで、お前、下で臼んな食うどええごで」
「臼にないもの」
「ないわけあんまぇちゃい、お前まぐって行ったんだもの」
 て言うずもの、意地悪くて、今度。
「困ったな。ちいと呉っでみねぇか」
 下いじっど下見て、食うど口元見て、食(く)だくて、お猿が仕様ないごんだずも。
「んだな、そがえに見てんもの、呉っこで」
 て、餅、手さからんだど。そうして猿の一生懸命で見っだ面(つら)さ、ビデッと押っつけたど。ほうしっど「熱い、熱い」て、猿は取っかと思うど、蛙も手熱くて取らんねぐなったど。蛙も火傷して、猿の面も餅ぶっつけらっじゃもんで、猿の面赤くなって、ほうして蛙が火傷して、両方の手、水かきみたいにくっついてしまったて。ほだから猿の面が赤くて、蛙の手に水かきあんなだど。どろびん。

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