9 かおすと狐

 むかしよ、かおすときつねがいだったど。ところが、かおすて、川の中にいてありったけのろい奴。それから狐はかさこそしてる。んだもんで山の神さまさ、かおす、もくかく、もくかくと川から上がって来て、出かけたわけだど。二十四日あたりか、正月あたりだったか、寒い時だったど。ほして餅別当に行ったわけだ。みな神さまさ上げるんだから、ほうしたらこっちから狐、ポンポン、ポンポンと走って来て、出っくわしたど。したら、かおすが、
「狐どの、どこさ行ぎやる」
 て言うたって。ほしたら、
「おれぁ、餅を別当に行くどこだ」
 て、こう言うたど。
「ほうか、おれも餅を別当に来たのよ、腹減って仕様ないからと思ってきた。狐どの、お前足速いから、おれどこめんどう見て、仲よくして分けて食ねか」
 て、こう言うたって。
「あんまりええな、ほんじゃ分けんべ」
 て言うた。鳥居のどこまで仲よくして行った。鳥居のどこまで行ったら餅見えるもんで、狐走り出したって、ペカパカ、ペカパカ、じょがらっぽい面(つら)して、まだかおす行(い)ぎ届かないうち、半分も食べてしまったって。かおす行ってはぁ、のそらくそらと台さ上がっているうちに、狐、ほとんど食べてしまったって。かおす、決めことしたんだど。
「狐どの、うまいがったべ」
「腹くっちい」
 て言うたど。
「おら、腹ぺこぺだ」
 て言うずも。
「んだから、せっせと来っどええごで」
 なて言わっじゃきりだったど。ほうすっどかおす賢いもんで考えたど。
「狐どの」「何だ、腹くっちくて喋らんねぐらいだ」
 て、いっじも。と、
「あさって、おら家さ招ばっで来い、おれ、カジカ汁して食(か)せっから」
 て、こう言うたど。
「あさってが」「んだ、あさってよ、晩方来い」
「ほうか、ほんじゃ、しょうしなごんだな(ありがたいことだな)」
 ほうして、あさってになれば、ええくて、狐、まず、
「早く暗くなればええなぁ、今夜寝っど、いま一つ寝っど…」
 て、楽しみにして待って、朝に早々に行ったずも。髪など結って洒落て、「おはよう」なて、朝から出かけたずも。
「何だ、こんなに早く来たなが」
「んだて、あさってだべ、今、あさってだもの」
 て、夜明けっど行ったんだど。したら、
「ほんじゃら、まず、お前来ておぐやったごんでは、あの、おれぁお膳部すっから」
 なて、流しさ行って、ガタドン、ガタドンなて、カジカ鍋さ入れて、火焚いっだどこさ掛けて行ったじも。
「おれぁ、味噌もって来て、入れんなねから」
 なて、そう言うてるうちに、鍋の蓋とってはぁ、狐食いはじめっこんだずもよはぁ。「あっつ」なて、黙って食べたらええがんべ、「あっつ」なて…。
 こんど骨なのひっかけて、むかし蓆なの敷いっだもんだから、ガリガリなて、切ながって蓆なのかっつぁぎ、かっつぁぎ、盗んで食ってだんだずも。
「狐どの、みなお前に食わせんのだから、ほんないやしいことすねんだ」
「何もしていねなだ」
 なて。今度は食うにも食うにも、三杯も食ったんだずもはぁ。ほうしてまた腹ポンポンになってはぁ、
「腹パンコパンコになったはぁ、破(やぶ)けるくらいだはぁ、なじょして獲ったもんだ、ところで…」
「おらも、狐どのんどこさ招ばっで行きたいなぁ、一回」
 なて言うど。したら、
「おれ招ぶ、ほんでは、なじょして獲ったんだ、このカジカ」
「よう、なりだけ寒い晩によ、川の水、たんとないどこさ、こう尻かけて居っどええ。と、尻尾さカジカ、どっさりつくもんだ」
 なていたど。
「お身の尻尾など太(ふっと)いくて、長いから、なんぼ掛かんだか、夜明けるまで尻尾ささせ、深いどこでは分んねから、浅いこいどこだどカジカ上がって眠ぶっていっから、そこさ行って尻ぶっつけておくどはぁ、重たくて、ちょえっと持(たが)って来らんねくらい掛っこで」
 て教えたど。喜んで、
「ほんじゃ、いつ招んだらええがんべ」
「寒じる晩げでないと分んないから、いつでもおれは招ばって行んから、カジカとってからお使いしてけろ」
 て言うた。「はい」なてはぁ、こんどぁ行った。そうしたら、ある寒じる晩に、こんどは狐尻尾漬けだずも。ちょうど前川の浅いどこさ漬けだずも。ほしたら二時頃、尻尾引っぱってみたど。あんまり寒いから、ミリミリて言うもなぁ。
「よっぽど掛ったな。ミリミリて言うなぁ」
 なて狐寒くてぶるぶるて言うどこ、かおすどこ招ばんなねから我慢してる。我慢し切れなくなったげんども、
「こんど夜明けてきたから、行くべはぁ」
 と思ったって。ほうしたら引っ立ててみたら、ミリミリって言わなくなったって。よっく凍(し)みついではぁ、そうして引っ張ったげんども、いっこう尻動かねぐなったてよ。凍みついではぁ。そうしたもんで、そこ畜生なもんで、黙って引っ張ってみれば、ええことに、なんぼ引っ張っても尻尾出て来(こ)ねもんだから、ギャーギャーなて引っ張ったずも。ほうしたれば道踏みカンジキ持(たが)って出て、
「なんだ、おい、お身、狐鳴く音だ、んねが」
「うん、そう言われれば、ほだようだな」
 なて言うたど。
「何だ、そこらで鳴く、んねが」
 て言うたずも。そして、こうして見たずも。したら狐は一生懸命でふんばり方しったずも、尻尾とりで。ほうしたら砂掃きで、箆(へら)の大きな持って行って、ワサリワサリと根まで行ったげんども逃げらんね、尻尾凍みついて、ほんでこんど箆で叩がっで狐とらっでしまったけど。と、かおす喜んでよ。ほだから嘘語ったり意地の悪いことしたり、餅をみな一人で食べて悪れことしたり、人が招べば鍋の蓋なのとって、みな食ってしまって、いたからで、嘘は決して言うたりするもんでないもんだけど。どろびん。

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