8 油取り

 ただ居て、うまいもの食いだいて、神さまさ願かけしたって。ほうしたら、ある時、篭持(たが)って迎えに来たって、
「何にも仕事しないで、うまいもの食れっどこさ連(つ)れて行(い)んから、歩(あ)えべ」
 て、篭で迎えに来てくれだって。「ええあんばいだ」と思って、篭さ、篭なて生まっで初めてだからって、喜んでのって行ったて。ほしたら大きな山奥の寺みたいな大きな家さ連れて行がっで、何にも仕事などさせないで、板の間拭けっても言わないで、いや、うまいものどっさり食せらっじゃど。
「いや、今日はこいつええべ、明日は果物か、今日は魚か」
 家でなど見たこともないもの、どっさりずつ食せられる。大喜んでいたら、夜オシッコだと思って目覚ましたら、大きな家だったほでに、どこかで人のうなり声が聞える。妙だなと思ったもんで、そおっとその声のする方さ行ってみだって。そしたらば、一番と奥まったどこの座敷から声したんだど。窓を少し穴あけて見たど。そしたらば、「苦しい、苦しい、こがなひどい目あってるより、ひとおもいに殺して呉(く)ろ、ひとおもいに殺して呉ろ」て、とても泣くんだど。その人よ。ほしたら、よくよく、よっく見たら、下さ炭の一俵もおこしてな、天井の梁さ男吊るさっで、下から大きな団扇であおり立てて、そうすっど油タチンタチンと出んな、下さ置いで、そこさ油滴(た)るようにしったんだけど。ほんで、
「いや、恐っかないこと、恐っかないこと」
 て見っだら、二人の人居でて、油とりだったけど。ほして、
「あの、先度(せんど)の来た男ぁ、何日くらいおもったら取ったらええんだかな」
 て言うたって。
「んだな、あんで、よっぽどうまいもの食せたから、油かかったべから、いま三日か二日ぐらいで、あの人の番だごで」
 なて言うてだ。ほうしたらふるえたんだってはぁ、恐っかなくて。
「おれもああいう風にされっべなぁ」
 なて、そおっと来て、寝ていんべと思ったげんど、どこにも逃げっどこないって、みな錠かかって、「さぁさぁ困ったなぁ」と思って、そこら探したら、便所の窓でもあったか、どっからか逃げたど。そしたら松明(たいまつ)つけて後ろから追っかけで来っずもの。ほしたら恐っかねくて、恐っかねくて、助けて呉(く)ろなんては言わんねんだし、逃げだど。どこまでも追っかけてくる。追っかけ上手の逃げのろいて言うんだか、足丸まって恐っかなくて歩(あ)えばんねうちに追っかける人、速くて速くて、追っつかれそうになったって。したら困ったなぁと思ってだら、こんどは逃げらんねような川出きたって。見れば見るほど深いようだ、その川がよ。んで、何とも仕様ないなぁと思っていたら、そこに一本橋がかかっていだって。そいつ死んだら一つだて渡ったってよ。そしたらその橋から落ちてしまったごんだど。後ろから追っかけて来るもんで気もんで、「うぁー」ザブンとその川さ入ったて。
 ところが、それが夢でよ、川さ入ったとたんに目覚めて見たらば、夢だったて。それから今度、その息子が、ただ居てうまいもの食いたいていうことはやめて、うんと稼ぐようになって、油とりされっから、ただいてうまいもの食うのは油とりばっかりだからって、自分から言って、それを神さまに夢見せらっじゃ。夢枕に立ったんだど。それからすごく稼ぐようになって、その家、とっても金持ちになったという話だっけ。どろびん。

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