3 寺子屋ばなし

 小(ち)っちゃい部落で、和尚さま、寺子屋しったって。そしたら二人ばりさ教えていだったてな。したら随分とその子どもらが憶え、ええて。こがえな子どもら憶え、ええて。
「こがえな子どもら、憶え、ええから、親たちはなんぼかええべから、一つ招ばってお茶でも進ぜんべ」
 と思って、そしてお正月招ばったって。ほしたら立派にしてる父(とと)さだったど。両方ともよ。ほして、
「立派にばりしったて仕様ないから、何か歌の一つも詠んでおくやい」
 なて言うたど。歌なて何にも知しゃねから、詠みようないんだもなぁ。そしたら、「何でもええから、何でもええから」て言わっだって。したら一人の親父(おやん)つぁま、裏板も上げない簾上げっだ天井見っだら。その寺で、古いのと新しいのと上げっだど。
「白い菰もある、黒い菰もある」
 て言うたってよ。ほしたら、
「いやいや、大変によくできた、本当だ、おら家(え)に白いなと黒いなある」
 て、和尚さまに誉めらっだ。一人の家の息子の親父つぁま、また、
「何とも仕様ないんだから、小便でもたれて来たらええんだか、何だか」
 と思って、便所さ行った。そしてはぁ、堅いもんだから、歌一つ詠まねで行かんねと思ってしまったもんだど。考えっだけずぁ、「ううん」なて咳(しわふき)などしたど。息子はそいつ見て困ったど。そしたら、
「頭ぷらぷら、しずくたんたん」
 て言うた。ほしたら息子は、こんど、
「ほんじゃ、おらだも一つ和歌詠むか」
 なて言うたんだど。そしたら先の息子なぁ、
  前の松 さぎとからすが巣をかけて
   白い子もある 黒い子もある
 て、こう言うたてよ。それから後の息子は、
  水鳥は波にゆられて立つときは
   頭ぷらぷら しずくたんたん
 て言うたって。

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