1 法印と狐

 むかし、和尚さまがお持斉にお経読みに行ったってよ。ところが滝沢の向うあたりまで行ったとき、何だべなぁと思ったら、狐が道端に昼寝しったて。と、
「こいつ、魂消らかして呉れっかなぁ」
 と、法印がホラ貝を持(たが)って行ったもんで、狐さそっと行って、こう耳さ当てて、ボホン、ボホンと吹いだってよ。
 ところが、狐は驚いて逃げだって。逃げっどき後ろ振りかえして、法印さまの顔つくづく見て行ったって。ほして滝沢さ行って、みんなの家、お経読んでお勤め終(おや)して帰ってきたって。
 ほして、ちょうどその狐いたずらした所まできたらば、色香わるくなって、暗くなりそうになった。
「こんなはずはなかったなぁ、まずなんぼそちこち二軒三軒お勤めしたたても、こんなはずなかったなぁ」
 と思ったげんども、とにかくそう思っているうちに一寸先見えねえ、真暗になってしまった。
「困ったごんだなぁ」
 て思ったてよ。ほしたら向うの方から、
  ドンドコ ドンドン ドンドコ ドンドン
 なて、太鼓の音したって。そうすっどそいつさ合せて、カンカン、カンカンて荼毘(だみ)の鐘の音聞えるって。ほして、
「困ったなあ、なんだてこがえなどころで、誰、荼毘など、こがえな滝沢原あたりで出るもんだべなぁ」
 て思っていだって。そしたらだんだんと近くなって、こんどは冥(みょう)鉢(はち)の音など、ジャラジャラン、ジャラジャランなて鳴らすずも。ほしていたら、法印さまのちょうど足元のあたりさ穴掘らってで、埋めだんだど。その死人よ。そして、「よしよし」なて、香立ててよ、帰って行ったて。
「奇態なごんだ」
 て、尻かけて暗くて歩(あ)えばんねから、見っだって。したらそのお墓から青火、ポポポー、ポポポーて出たって。ほして死人がワラジ履いて、細すねして、白い着物きて、その塚から出てきたって。
「さぁさぁ、さぁさぁ、困ったごんだ。お経読み商売だって…」
 さびしくなってきたって。「困ったなぁ」ていだど。そしたら恐っかなくなって逃げたら追っかけっど。その死人が追っかけるもんで、何とも仕様ないったば、ちょうど脇に木が一本あったってよ。その木さ登ったってよ。ほしたら、「山伏山伏」て追っかけるずも。そしてこんど木さ登ったら、どこまでも細い音立ててやせた足して、ピタリピタリと登ってきたど。とっても恐っかなくていらんねくて、シンポエまで登って行ったど。どこまでも登って行ったど。登っどこないもんだから、その死人が冷たい手して、足おさえだんだど。ピターッと足押えだんだど。「山伏山伏」て。ほしてはぁ、こんどぁ驚いてはぁ、木から逆(さか)さトンボに降りて来たってよ。そしたら、ちょうど三時頃で明るくて、何にもなかったから、狐の返報がえして言うもんだど。
 んだから畜生でも人間でも、やたらにいたずらはさんねもんだけど。どろびん。

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