2 車堰の柳の木

 菖蒲川と宮川の合流すっどこに、水車屋あって、車さ水ひっぱっているどこあって、〈車屋〉と言っていた。そこの周辺を車堰ていうて、そこに柳の木の太いながあったて言うんだな。
 むかしむかし、ある百姓がいて、その百姓が、おくさんに逝くならっだもんだから、子どもかかえて、非常に苦しんだ。ほしてこの辺で、車堰ていうどころがあって、その車堰というところに、すばらしい柳の木があった。ほしてほの柳の木さ、結えつけて、柳の木の近くの畑うないしておったど。
 ところが、今迄、わぁわぁと泣いっだその子ども―お柳さんというたった―が、柳の木のちょっとした出っぱりを乳ふくんだみたいして、ツパツパ、ツパツパて吸ってな、泣き止んだ。して、毎日そういう風にして泣き止むもんだから、そこさつれで行って、まず、働いっだ。んで、その娘も、歳月が過ぎて、とうとう一丁前になって、お聟さん迎えた。
 子ども生んでみたら、そのお柳さんがさっぱり乳出ない。不思議なこともあるもんだて。して、そのお柳さんが若いとき、柳の木の出っぱりさ行って、その乳吸ったこと思い出して、そこさ行って、柳の木の出っぱりさ触わってみたら、何かツバナさして来たような気して、ほして、乳がどんどん出るようになってきたど。
 この辺では、乳の出ない人が、柳の木さ行って、その出っぱりさ触わっど、乳出るぐなるていうて、車堰の柳ていうな、乳出る薬の木だていうたったて。どんぴんからりん、すっからりん。
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