1 三廻り半と夜廻り

 むがしむがし、あるところに、とっても体も小さくて非力な人いだったど。他人から馬鹿にさっで、
「何とか、おれ、力持ちになって、他より余計力あるなてならねったてええがら、人並みぐらいになりたい」
 と、常にこういうこと考えていだったて。んだげんども、まず物をかついだり、背負ったりするにも、人の半分も出来ないような塩梅だった。
「困ったなぁ」
 ていうことで、日に日に悩んでおったど。
 ところが、ある時、町さ行ったら、〈一まわり一人前〉ていう薬売ってるところがあったって。
「これはええことだ。二まわり飲めば、おれは大体他人さ追いつけるぐなるなぁ」
 ていうことで、そしてその値段聞いてみたれば、また値段も高い。ほんで、まず親類縁者からも金借っで、そして自分のあり金、処分するいものは処分して、一生に一度の力もちになるんだからって、その薬買った。なんぼ買ったと思ったば、三まわり半しか買えながった。して、三まわり半買って、そこの買ったどこで、どのぐらい力出たべなぁと思って、ためしに橋の欄干さ、ぶっつかってみたれば、橋の欄干なの、丈夫だと思ったな、メリメリ、メリメリていった。
「や、これは、おれは力出た。」
 今度ぁ、柱さぶっつかってみたらば、柱倒っだ。
「いや、まさしくこの薬は効くんだ」
 と、こういう風にして、
「んだらば、夜、人さぶっつかってみんべ」
 こういうわけで、ほの橋の上で、向うから、とこりとこりと提灯さげてくる人さ、いきなりぶっつかった。ほしたら、飛ばさっで、橋の下まで飛ばさっでしまった。
「あなた、何様だ」
 て聞いたら、
「おれは、夜廻り(四まわり)だ」
 て言うたって。んだから、三まわり半しかないから、世廻りに飛ばさっだったって。どんぴんからりん、すっからりん。
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