29 塙保己一

 塙保己一という座頭で学者、その人い だったそうだ。その人は幼いとき眼病に かかって盲目となって悲しがったげんど、 親たちは目なのないったても、学問さえ もすっこんだら、世の中は面白いく渡ら れるもんだど。んだから一生懸命で本よ んで聞かせっから勉強しろ、といわっで、 読んで聞かせたら、記憶はええくて、み な憶えっこんだど。四書五経という本で も何でも、みな空 (そら) 憶えして、弟子なの いっぱいとって…。
 その弟子はある晩、ローソクをつけて、 保己一が盲目で本みないでハラハラと読 んでいたところが、風のためにローソク は消えたそうだ。そうすっじど、
「いや、お師匠さん、ちょっと待ちでお くやい、灯 (あか) しがなくて、おらだ読むよう は出来ないから」
 保己一は、あはは…と笑って、
「目のあるくらい不自由なものはないも んだ。明るくなくては歩 (あい) ばんね、明るく なくては読まんねなて、開きめくらとい うもんだ」
 と、保己一に笑わっだど。んだから、 開きめくらになんないように、めくらで さえも一生懸命勉強すっど、人のために、 隣のためになるもんだから、目開いた人 は一生懸命に勉強しろど。
(海老名ちゃう)
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