18 長手堰

 長手堰ざぁ、長井橋の向うに、東根さ 水来るようにしておいた堰だ。
 むかし、畔藤の裏あたりまで水は掛ん ねわけだったど。あそこから浅立・広野・ 東根の畔藤まで通したのが長手堰だった。 その堰を米沢の殿さまに行って、
「とにかく田耕やして、米とんねでは百 姓はひどいから、どうか堰を掘らせて呉 ろ」
 というて、期、何か月とかいうことで 許さっだそうだ。浅立・森など、あっち の方の人、皆寄って、堰掘ったそうだ。 そしてまず何日ということの期限だから、 先立ちした人、心配しで堰さ水ぁ掛んな ければ、人夫というものは少しばり掛っ たもんでないし、おれは打首にさっじゃ て、苦になんないげんど、どうしたらえ えがんべど、神さまお願いするより他に ないと思って、朝には水垢離とって、そ うして一生懸命で拝 (おが) 申して、その仕事さ かかって、ある晩、夢に枕神に立って、
「心配ない、おれのお使い者をやるから、 いっぱい蓆を堰さ敷かんなねから、みん なに出してもらって、そうして使いの者 の動くたんびに蓆を敷け」
 ということの夢枕で教えらっじゃど。 それからみんなどさ話して、
「ありがたいことだ」
 といたら、どことなく二匹の白狐が現 われて、ピコンピコン・ピコンピコンと いうどこさ、かまわず蓆敷いたど。そし てこんどいよいよ殿さまからござって、 流す段になったところぁ、まず勢よく、 蓆の上、ざっとええあんばいに流っで、 水はとどこおりなく掛ったそうだ。そん で長井の堰の上に、お水神さまと、稲荷 さまを祀ってある。
(海老名ちゃう)
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