14 鬼の腕

 渡辺というえらい人いだったど。
羅生門というところに化物来て、人を さらったり、とにかくそこの道歩かんね ぐなったそうだ。そうすっじど、その武 士は、
「そんなものに負けていらんね、おれぁ 一人で征伐してくれる」
 と、鎧・冑着てちゃんとしたとこの頭 抑えらっで、ぶら下げらっじゃど。それ から刀持 (たが) って、下げらっだどこの鬼の手 を切ったど。そのうちに、ずうっと天気 が上がった。
 それから鬼は出なくなったど。
 正月の二十八日に、その人の乳母で、 乳飲んだ親いだったど。その親になって はるばる「お前、とんな鬼の腕とったそ うだ。珍らしいから、誰にも見せないそう だげんども、おれに見せてもらわんなね」
 と来らっで、乳のんだ親だもの、見せ ねえでいらんねぇべなと思ったげんど、 乳飲んだ親だから見せるからと、箱さ 入 (い) っで立派なものさ包んだもの持ってき て、親さ出したそうだ。
「おやおや、珍らしい鬼の腕か」
 と見っだけぁ、何だか顔色も変 (かわ) らせた。 不思議だなと思ったら、小豆餅、鍋さ掛 けっだのさ、チョイチョイと継いではぁ、 ツツゥと煙出しから飛んで行かっだど。
 んだから渡辺家では昔から「煙出し」 は付けねがったど。
(海老名ちゃう)
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