12 欲ない商人

 商人つぁええもんだと思って、欲さっ ぱりない人ぁ商人になって、むごさい人 さは呉れる、まけるで、さっぱり儲けな んつぁなくて、妻子養うことできなくて、 来っずどはぁ、オカタにおんつぁれ、お んつぁれ、何としたらええかと思って、 商人が、
「百姓でもなったらええんだか、なじょ したらええんだか」
 どて、心配した。そしたところが、あ る晩夢を見たんだど。南の方さ行って 掘ってみっじど、宝はあるとか拾われる とかということ、夢に見せらっだとこ ろぁ、黙って、
「おれは大阪さ行く」
 と、出はって行っで、まず行ったり来 たり、毎日大阪を、同じ道歩くの、商人 は見て、
「何者だべ、まず。お前は毎日毎日この 道を歩って、曲ってみてやる」
「こっちの方さ来っど、宝は落ちてると 言わっだから、見っだどこだ」
 と。
「商人町だから、宝なの落して行くもん でない、お前はよくよく田舎から来たん だな、お前はむこさい」
 そして、毎日毎日、ただ宝あるなて夢 で教えらっで、真面目になって、そがえ してっじど、まずこっちの方でなど、馬 の目も抜くというくらいな商人ばりいだ んだ、ほがえなことしないで、南の方掘っ て、百姓でもしてみたらええでないかと、 教えらっじゃごんだど。
「はぁ、そうか。なんぼ見ても宝は落ち てないなぁ」
 というて、家さ帰ってきて、そういう 話したらば、
「まず、生命あったからええがったごで。 大阪さなの行ってがらざぁ、お前みたい な人は、帰らんねがら、よく帰ってきた。 まず働くより商人になるなて、ぶらぶら いる。働くよりほかに手はないのだから、 空地、南の方にあるの、まず一生懸命で 耕して、食うだけ食うようにしたらええ がんべ」
 と、オカタに教えらっで、そこさ、こ んど行って掘ったらカチンというものあ る。見たところは甕さ金入っていだん だっけど。正直もんだから、金授かった から、一生懸命わるい考え起さねで働く と、いつか日にええことあるもんだど。
(海老名ちゃう)
>>牛方と山姥(四)目次へ