9 太郎と次郎

 太郎と次郎と旦那さまさ奉公して二人 育 (おが) しったそうだ。そうしたば太郎という のは、これは稼ぐのは嫌いで、次郎とい うのは真面目で一生けんめいで、旦那さ まさ仕えて、太郎は口なのばり上手で、 あるとき、お客さま来ることになったど。
「太郎・次郎、今晩はお客さまとれっか ら、太郎がまずおつき合いに行って、魚 でも買ってきたり、いろいろしてもらわ んなねし、次郎は屋敷掃除から家掃除、 手伝ってもらわんなねな」
 と、主人がこういうたそうだ。そうし たところが、行きたくなくて、太郎は「は い」というたげんども、
「ああ、足しびっで、しびっで立たんね ぐなった。これは困ったもんだ。歩 (あ) ゆば んねなぁ、ああ痛い痛い」
「ほうか、そんじゃ畳の塵を額 (ひたい) にすっ ど、そいつぁマジナイだから、引っつけ て呉 (け) る」
 と、旦那は塵引っつけて呉 (け) たごんだ。
「旦那さま、おれぁ、そんなマジナイで 効く足でない。おれぁ足は親からの譲り もんで、とにかく治るもんでない」
「はぁ、困ったごんだな。ほんじゃ仕方 ないから次郎のとこさ、やんなくちゃな んない。たしか嫌 (や) んだからこういうごと 語ったなだべな」
 と、旦那さまは考えて、
「どうして足、そんがいにしびれるんだ」
 というたところぁ、
「おれぁ、大勢の兄弟で、兄だはいろい ろな家のもの分けてもらったげんど、お れぁ末子なもんだほでに、もらうものな くて、足のしびれ、親からもらったんだ」
 こういうごんだど。
「ほんじゃ、仕方ない。それぁとうしし びれているごんだれば、仕様ぁないから、 お前は今日限り暇 (てま) を出すから帰れ」
「いやいや、こんどはしびんねように すっから、置いて呉ろ」
 というたげんども、とにかく見込みは ないから、そんではぁ出してやらっじゃ ど。してまた次郎というじど、真面目に 働いたから主人に愛される。
「ええ嫁とって呉れんなねべな、次郎さ」
 ほだら行きたい、呉れたいで、嫁もらっ て、まず安泰にして、太郎はこんどは先 のうちは口で巡って歩って、食ったりい ろいろしたげんども、年寄りになったと ころぁ、誰も助けて食せて呉 (け) る人ないも んだから、太郎はあっちしびれ、こっち しびれになってはぁ、とうとう、のめり のめりして死んだど。
 んだから、若いうちには、真面目に働 かんなね。
(海老名ちゃう)
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