5 鷹にさらわれた子

 ある百姓の女が子ども「えじこ」さ入 れて、畑仕事に行ったど。そしたところ がそのとき、自分も子どもにも同じ清水 観音のお守り掛っだそうだ。そしたば鷹 だか、大きな鳥が来て、子どもをさらっ て行ったど。そして京都の寺の門前にあ る木に落したど。そしてこんどは、おっ かさは子どもむごさいもんだからはぁ、 そのまんま、鷹の行った方さ行って、乞 食になって、いつか会われんべと思って 騒いだもんだど。そしたところが、何年 もよったかだげんど、かまわずもらって は食いだげんども、一軒一軒尋ねて京都 さ行ったごんだど。
 そしたところは、あるとこでみんな 寄って、
「いや、立派な和尚さま、今日はお位に ついて、みんなで拝 (お) が申されるとこだ。 おらだそこさ見に行くとこだ」
 という人たちに行き会ったとこだど。 そしておれの子どもには相違ないと、ま た人の寄ってだとこさ行って話聞いて みっじど、二年前にさらわっで来て、寺 の門前の杉の木の枝さ落どさっで、よく 死ななかったもんだ。あそこの和尚さま は、それを育てて、立派な和尚さまだぞ、 今日でなければ拝 (おが) 申さんねから、おらだ 遠かい所から来たなどという話、あっち こっちで聞けっこんだどな。ああ、これ はさいわいだと思って、そこの寺の門前 さ隠っでいだそうだ。そうしたところが、 赤い衣着て、大きな唐傘さして、人いっ ぱいどうどうと、後から後から続いて、 大和尚になって来っどこ見たごんだど。 さぁそうして、飛び出して、おれの子ど もだというもんで、その人さ飛びついた ごんだどな。そしたばみんな、
「なに無礼なもんだ、乞食はそがえに寄 られるもんでないから、ぶっ叩け」
 なんて片一方では言うようなもんだっ たど。それくらいの和尚さまだったもん で、
「いやいや、そういう風なことしないで、 まず、お湯さでも入れてきれいにしてか ら、いま少し待たせてて呉 (く) ろ」
 そう和尚さまにいわっだもんだから、 何とも仕様なくて、乞食をお湯さ入っで、 女の着物なんつぁないもんだから、和尚 さまのわるい着物など着せてて、台所の 片隅さ置いっだとこだど。こんど大和尚 は帰ってきて、みんな引いて二人ばりに なってから、まず話して、
「おれは、こういうもの持っていた。こ れ分ったか」
 というたば、
「おれも。二人ぁ持ってたのだ」
 と、胸から出したもんだど。そしてよ くよく分って、その和尚さまは、
「おれはさらわっで、やっぱし親は尋ね て来たのだから、これを大切にしなく ちゃなんないから、別荘つくってもらわ んなね」
 つうもんで、別荘つくって、毎日たの しませて送ったということだ。
(海老名ちゃう)
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