1 炭焼き兄弟

 兄弟で、親に、
「こんどは二人で一人前になったがら はぁ、とにかくお前がたにまかせるから、 こんどは山さ行って炭焼きしろよ」
 と、親にいわっで、山にはいろいろな 狐・狸・貂 (てん) など、人間を化かにするもの はいるから、気付けて、山 刀 (やまがたな) というな 短かいの、それを決して夜でも何でも放 さないで、枕元さ置いて放さないでして ろよ、といわっでいだったそうだ。そし たばあるとき、米はないから、弟は家さ 行かんなねぐなって、家さ行って、その 夕方から少し雪ぁ降ったったそうだ。今 晩帰って来 (こ) まいからと、親に言わっだ通 りに、こりゃ何か来ないなんつぅごどは ないから、まず寝ないで山刀を脇さ置い て、火どんどんと鍋さわかしていたそう だ。そしたら女の声で、
「今晩、今晩、道に間違って来たほでに、 寄せて呉 (く) ろ」
 というの来たけど。そしたば、寄れと いうたば、女は来て、
「こっちゃ来て当れ」
 炉端さ来て当って、そして眠ぶかけ しったけど。そしてあくびして、ぺろっ と大きな口開いて、舌 (べろ) の長いの出したご んだずもな。やっぱし何だかと思って油 断しないで、
「寝たらええんねがはぁ」
 というたば、そのうちにお湯煮立って いたな、眠ぶかけしったとこさ、その鍋 のお湯、じゃあと掛けて呉 (け) っじゃもんだ ずも。そしたところぁ、ぎゃあぎゃあぎゃ あぎゃあと尻尾は出す、そして大きな狢 がぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあというとこ ろば、山刀でデンデンと頭叩いて、殺し て、そして引ずって行って、蓆掛けっだ どこだど。
「一匹ばりでないこりゃ、こういう風に 化けて来るくらいな、一匹ではないんだ、 まずもう一匹来るべ」
 と思っていたところぁ、来たずもな。
「今晩は、女が道に迷って来なかったか」
「知 (し) しゃねなぁ、来なかったなぁ」
「寄せろ」
 と入って来たど。そうしたところが、 何だか腰掛けて入って来ないげんども、 懐の中から、袋だか風呂敷だかというも のひろげて、
「ほんに来なかったか」
 そいつ、狸ざぁ、何袋だか持ってるも んだということ聞いたそうだ。たんと功 労したものさ…。
「はぁ、そいつだ」
 と思って、燃え木尻ぶん投げてやった ば、そいつくるくるくると、くるんで、 きゃあきゃあきゃあと、そいつも言うも んだけど。そしてこんどは、
「これはええがった。まずあいつになの、 くるまれっど分んねがった、ありゃ獲っ た」
 というもんで、喜んでそれもその刀で 二匹獲ったてなぁ。そして弟は朝方帰っ て来て、
「何か来なかったか、兄、兄」
 というど。そして、
「居たか、居たか」
「居たから寄って来い、とんな、夕べ面 白いもの獲れたから…」
 と、気味悪がって入って来 (こ) れなくてい たとこさ、早く来い、とんなもの二匹獲っ た、と来て見たら兄なの何 (な) じょになって いたか、ものの足跡見たほでに、兄でな いかと思ったったと、来たけなんてよ。 大した仕事したという話よ。
 んだから、やっぱし、こういうものが でんでんと叩くときには、人は何尺のと こ、それから獣はなんぼのとこと測って らんなねどなっし。口ぱしで叩 (はた) いたり、 手で叩 (はた) いたりする。
 貂 (てん) の化物なんざぁ、功労したの、 ひょっと何かに見て、なんだべなぁと 思っていっじど、ずんずん、ずんずんと 人よりも高くなって行って、見っずど、 ノドの血を飲むもんだと教えらっだもん だ。
 かおす(かわうそ)の化物なんども、 何かになって転んでいっから、そんどき 気付けろなて、昔の人は教えたもんだ。
 向いの橋渡って行かんなねどこの、向 いの家となっていだったとこで、そして 用あって提灯つけて行ったところが、め んごい捨子、裸になって寝っだけど。そ んで提灯こうして見たところが、金玉大 きいけど。化けらんねもんだからよ。
「こりゃこいつ片端だから、捨てて行っ たんであんまいしな、こっちの家でなど 育てられっこでなぁ」
 どて、
「まず捨子ぁいた」
 というたところが、みんな出はって来 たらば、捨子はころころころと行って、 橋の上からポチャンと行ったってよ。そ して見たところが、かおすがヒカヒカヒ カというけど。
 決して、夜歩くときなど大きな何かな の、手かけたりすんなと教えらっでだも んだ。
(海老名ちゃう)
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