43 小僧と狐

 和尚さんと小僧がいて、和尚さんが下 ささがっている留守なうちに、狐は夕方、
「小僧さん、小僧さん」
 と、こう呼ばって、
「不思議だな」
 と。不思議だから戸を開けないで、本 堂の曲り角で見たところが、狐だったけ ど。
「おれどこ、人ばかにして、なんぼ吠え たって、狐に小馬鹿にさっでいらんね」
 と思って。
 そしたば、尻尾でズウズウズウとして、 呼ばって、頭でドドンドドンとすんのだ けど。
「これはやっぱし賢いもんだな」
 それから、そっと台所の、狐のいたど こさ来て。狐ぁ頭でドドンドドンとして、
「小僧さん、小僧さん」
 と、そうすっどき、その勢いで、ぐっ と開けたれば、狐はドェンと入って来て、 台所の下さ落ちたど。こんどは戸を勢い よく閉めて呉(く)れんべと思って、箒なの 持(たが)って叩いたげんど、足ぁ早いもんだか ら、どこさ行ったか見当らね。
「なえだか、家の中にいたに違いないべ げんど、そのうちに和尚さんが来てくれ ればええ。こんな狐なの負けていらんね」
 と、度胸ええく構えて、そしてこんど 仏壇の方さ行ったけぁ、羅漢さま二つ あっけど。同じで、どっちがどうなんだ かなぁと思って、
「羅漢さまは、おれぁお経聞くじど、舌(べろ) 出して喜ぶ。どっちぁ本当の羅漢さまだ かな」
 と、賢いこ小僧だからな。木魚叩いて、 お経詠んでたところぁ、やっぱし舌、やぁ と出した。
「やぁ、これだな」
 と思って、こんどは、
「本当の羅漢さまだな」
 と賞めて、
「羅漢さま、御馳走したいから、まず下 ささがれ、うまい油揚げあるし、なんぼ もうまいもの和尚さま持ってやったから、 さがれ。御馳走すっから」
 その羅漢さまはコツコツと下がって来 たど。なんだって上手に化けたもんだ なぁと思って、
「さぁ、ほんじゃ、羅漢さま羅漢さまは うまいもの食ったときには、この釜さ 入って、ちゃんとして、おれのいうこと、 みな聞くもんだ。羅漢さま本当の羅漢さ まはそうだ」
 というたところが、羅漢さまは釜の中 さ入ったごんだど。それからギリギリギ リと縛って、
「とんなもの、和尚さま来たっけ、まず まず、生捕りにして置いっだどこだから、 まず」
 というもんで、
「おれと和尚さんばりでは分んね」
 と、みんなどこ頼んで来て、生捕りに したど。
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