37 仙人と若衆

 トウハリという人は、もはや親に別っ でただ遊んで暮らしているうちに一文な しになって、
「困った。なんとしたらええがなぁ、こ りゃ食うにも困った」
 と思って、町の北の方の門に立って、 しおしおとして居ったところに、白鬚お やした仙人がござって、
「お前は金欲しいか」
「欲しいな」
「お前、金あっどこ知(し)しゃね。お前寝っ たどこの枕元掘ってみろ」
 と。掘ってみたところが、まず金はいっ ぱいできてる。こんどぁ家を建て、毎日 毎日友だちとゼイタク暮ししてるもんだ から、その金も使い果して、また元通り になって、また門さ立ってたところが、 仙人が来て、
「どうだ、また金が欲しいか」
「おれは金は欲しくない。お前のように、 仙人になってみたい」
「仙人にしてくれっから、おれぁ言うこ と聞かなくてなんね」
「ほんじゃらば、この竹さ股いで、天さ 飛んで行(い)んから、喋んねようにしよ」
 といわっで、「はい」という。そのうち に仙人が見えなくなった。そうすっじど、 こんどとんなエンマ王が来て、
「何しに来た。何しに来たか語れ」
 黙って語んねでいたところが、こんど は鬼にたからっで、叩かっだり、いろい ろしたげんども、
「語りさえもしないど、仙人になられん べ」
 と思って、なんぼ痛く叩がっでも、な じょしたたて我慢しったところが、その 鬼に、
「女連(せ)てこい」
 といわっで、連(せ)て来たの見たところが、 われの母連(せ)て来らっで、いや、母のとこ ろをまず、いじめるいじめる。この上な くいじめっどこ、「おかぁさん!」とたぐ りついて行きたいげんどもと思って見っ だげんども、仙人に言わっじゃもんだか ら、まず見っだげんども、まず見かねて、 「おっかさん」とすがったところが、
「おれなの、なんぼ苦しんだってええか ら、お前ばりええあんばいになって…」
 といわっだげんど、お母さんさすがっ たところが、あっという間に、また元の 所に来た。そして、
「仙人がなして黙っていろというたのに、 黙っていねごんだ」
「いや、お母さんが、おれは元のように なったてええげんども、お母さんが責め られっどこ見っどとにかく我ばりええあ んばいになっだいとはいらんね。お母さ んさえも、ああいうにみじめに会せらん ねから、おれぁええ」
 というたらば、
「ほんじゃ、ええ心持だな。この天井の 山に百姓家あるから、そこさ行って、一 生懸命で働いて、少しの田畑耕していろ」
 といわっで、そこさ行って、なえでも かえでも一生そこで暮したど。
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