35 兄弟話

 むかし、北の国にブドーという神さま が、南の国から女の神さまをつれて行く ことで、途中で暗くなったもんだから、 ソミンとキョウダンという兄弟のところ を訪ねて、一晩泊ることにしたところが、 その弟の方は、とてもええ暮しをして、 門など立てていた。そこさ行ってお願い するということ言うたところが、泊めら んねといわっで、それから、兄の方さ行っ て、こういう風だから、一晩泊めて呉(く)ろ というたば、
「何でも、おらどこなどは、この通りで 何もないげんども、泊まって呉(く)ろ」
 と、そのもてなしの心は、いや、本当 に粟飯で、蒲団などは着たこともない聞 いたこともない。みな綿なの入ってない、 粟の穂なのばりつめたものさ、まず泊め らっだげんど、その温かいことは、その もてなしで大した喜んで帰ってござった ど。そして南の国さ行って、長く居て、 八人の子どもつれて、また帰やったど。
 そしてそこの備前の国さまた帰って、
「お前は何人もった」
「おれはたった一人しか娘持たない」
 と。
「疫神がはびこって来たから、お前に話 して行くべと思って、立寄ったのだ。そ の茅を輪にして、腰にさして、寝んべぁ 起きんべぁ、それをはずすな」
 といわっで、それを巻いてたうちに、 こんどある晩、疫神はあばれて、あっち ではねた、こっちではねたで、たちまち うちに、弟の方なの、真先に病気さかかっ て死に絶えてしまったど。そしてこんど 親切にした兄だけは、いろいろな病気に も掛んねで、長く伝わって行った。んだ から、願わっだときには、本当に知(し)しゃ ね人ざぁ、ないもんだから、親切にしな くちゃなんねど。
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